北朝鮮のオリンピック委員会が体育省「朝鮮体育」のホームページを通じて、東京五輪・パラリンピックへの不参加を表明したのは今月6日のことだ。
不参加理由について北朝鮮は「悪性のウイルス感染症による世界的な公衆衛生危機の状況から選手を守るため」としているが、北朝鮮問題に詳しいジャーナリストによれば「それはあくまでも表向きな話」として、こう語る。
「北朝鮮がホームページで五輪不参加を表明してから10日以上がたちますが、実は北からIOC宛には未だ正式に『オリンピック競技参加義務を免除してほしい』という申請はありません。たしかに、北朝鮮が日本に選手を派遣し、感染者が出た場合、国内のぜい弱な医療体制では、帰国したあとの対応が極めて困難になる懸念がある。なので『選手を守るため』という大義名分があれば、誰も異論は唱えないはず」
通常、北朝鮮は公式コメントを発表する際、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」や国営の「朝鮮中央通信」といったメディアを使うが、今回はなぜか、体育省のウェブサイトを使用。さらに14日には、IOCのトーマス・バッハ会長自らがコンタクトをとる予定と報じられたが、続報は聞こえてこない。
「五輪開催まであと3カ月ですが、北朝鮮が不参加を表明したことで、コロナ禍の中、それに追随する国が現れる可能性は否定できない。その時、アメリカや韓国、日本がどんな態度に出るのか。北朝鮮はそれを静観しているのかもしれません。それによっては、政治的思惑で態度を修正してくる可能性もあるのでは」(前出のジャーナリスト)
そんな北朝鮮に対し、韓国との南北融和を呼びかけ、さまざまな働きかけを行ってきたのが、IOCのバッハ会長だ。同氏は2018年冬の平昌五輪開会式で、韓国と北朝鮮の合同行進を実現。さらにアイスホッケー女子では史上初となる南北合同チームの結成を要請し、その功績がメディアを通じて全世界に報じられた。同年3月には北朝鮮を訪れ金正日総書記と会談、その際、東京オリンピック・パラリンピックに参加する意向を伝えられたとされる。
「ところがその後、世界選手権で南北合同チームが結成された柔道の混合団体をはじめ、五輪でバスケットボール女子、ホッケー女子、ボート競技での合同チーム結成を掲げたものの、結局、どれも実現せず。バッハ氏としては、せっかく骨を折って平昌五輪で南北融和をアピールしたにも関わらず、そのムードも消えつつある。だからこそ、なんとかもう一度、自らが音頭をとって存在感を示したいという思いがあるのでしょう。また、当然のことながら北朝鮮の不参加により、各国の不参加連鎖があるかもしれない。なので、バッハ氏としてはなんとしても北朝鮮の不参加を食い止めたい。ただ、北朝鮮としては当然、そうした相手の思惑は承知の上ですからね、あと3カ月、正直蓋を開けてみるまではわからないということです」
平和の祭典と呼ばれるオリンピック。だが、オリンピックを政治利用してはならない、という言葉が空しく聞こえるばかりだ。
(灯倫太郎)