レッドソックスの澤村拓一投手が“メジャーリーグの洗礼”をあびた。
4月11日のオリオールズ戦で7回二死から3番手で登板したが、「イニングまたぎ」の仕事を難なく終えようとした8回二死後のこと。対戦打者に2球目を投じ、捕手からの返球を受け取ったときだった。球審がマスクを外し、厳しい表情で「ボール交換」を命令したのだ。
「澤村が右手指に息を吹きかけ、それが反則行為と見なされました。ごく自然な一連の動作であり、ルール違反には見えませんでした。澤村は見せしめにされたんです」(米国人ライター)
メジャーリーグでは、新人選手が“かわいがり”に遭う通過儀礼がある。チームメイトが私服を隠し、移動中に恥ずかしい格好をさせられて移動するシーンは日本でも紹介されてきた。これらはいわば、チームが”歓待の意”を示す恒例行事だが、ゲーム中には審判が新人に対して厳しくあたるケースもあるようだ。
野球規則8・02条によれば、ピッチャープレートの半径約5・5メートル以内で指を温めるなどのため、息を吹きかける行為は「反則」と定められている。ボール交換、自動的にボールカウントが追加宣告されたのは規則通りではあるが、「他投手なら見逃していた」と、米国メディアも“新人イジメ”だと指摘していた。
「球審を務めたアンディ・フレッチャー氏は球宴でのジャッジ経験もあるベテランです」(同前)
それでも冷静さを失わず、1イニングと3分の1をゼロに抑えた澤村は立派だ。しかし、標的にさえた理由もないわけではなかった。
「近年、3A以下のマイナーリーグではピッチャーの反則行為がなくなりません。グラブにこっそり滑り止めのマツヤニを隠してつけておいたり、審判の目を盗んで指を濡らすなど…。不正とそれを見破る審判とマイナー投手のいたちごっこになっています」(ベテラン記者)
レッドソックスは米国中にファンを持つ伝統球団でもある。そのチームの新人に厳しく接すれば、マイナーリーグ全体にも「不正はできない」と広がるはず。審判団にはそんな狙いがあったようだ。
こうしたメジャーの洗礼を浴びても、試合後の澤村は淡々としていたという。度胸の座った立ち振る舞いからして、セットアッパーからクローザーに転向する日もそう遠くないようだ。
(スポーツライター・飯山満)