3兆円の公共投資をドブに…森会長の辞任で「五輪中止税」徴収の絶望シナリオ

 東京五輪の開幕が、5カ月先に迫ってきた。しかし、コロナウイルスは終息のメドが立たず、女性蔑視発言による会長交代劇までが重なり、国内の五輪意欲は萎えるばかり。日を追うごとに「中止」の公算が高まる中、とんでもない現実問題が降りかかってきた。

 ドタバタ劇を繰り広げた、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)が辞任した。これで一件落着かと思いきや、後任人事は難航。組織委員会関係者が悩ましい内情を明かす。

「森氏は元総理の人脈で政官財やアスリートに顔が利き、国内外のあらゆる調整が可能でした。しかも陣頭指揮にとどまらず、最前線の交渉事も担当していた。コロナで1年延期となり、スポンサー先に頭を下げて追加の協賛金を集めたのも森氏です。それだけおんぶに抱っこという状態だったので、誰も後釜をやりたがりませんでした。候補者のほとんどが、森氏の後ろ盾のおかげで今の地位まで出世した人材ばかり。川淵三郎氏(84)を指名した『密室人事』を批判された影響で、相談役として残る選択肢をも失った」

 玉石混交の候補者乱立の中、2月18日に開催された「候補者検討委員会」で、橋本聖子五輪相(56)が新会長として理事会の承認を得て正式に就任したが‥‥。

「政権の意向と『女性』に固執する国内世論を反映させたようです。森氏が院政を敷けない状況では、担がれる本人としても本意ではなかった。それでも最終的には、武藤敏郎事務総長(77)と橋本会長の新タッグで、五輪運営を担うしかなくなりました」(組織委員会関係者)

 新体制となっても、五輪開催に立ちはだかるハードルが下がるわけではない。五輪延期の元凶となった新型コロナウイルスを巡って、国内に「五輪中止」の世論が形成されているからだ。全国紙社会部デスクが解説する。

「共同通信社が2月7日に発表した世論調査によると、五輪・パラリンピックの今夏開催は『中止すべき』が35.2%。『再延期すべき』の47.1%と合わせると、今夏開催への反対票は実に80%を超える数字となります。1月7日の緊急事態宣言発出で、五輪開催への風当たりはさらに強くなりました。ちなみにIOCには、24年のパリ五輪のスケジュールを動かす意思はありません。新会長が今夏開催の世論を形成できなければ、東京五輪は中止の公算が高まってしまうのです」

 そもそもの大前提として、五輪中止の決定権はIOCに委ねられている。3月10~12日に予定されているIOC総会でトーマス・バッハ会長(67)の再任が決定してから、開催の可否を争点に最終的な議論がされる見込みだが、

「聖火リレーがスタートする3月25日が、判断のデッドラインとなるXデーと言われています。ただし、極端な話をすれば、日本で紛争が起きようが、コロナで何百人死のうが、開催国がNOと言わない限り、IOCは五輪を決行します。要するに、開催可能かどうかの判断を組織委員会や日本政府に丸投げしている。一番の狙いは、五輪中止の国内世論に押されて、日本側が開催をギブアップすること。中止を日本のせいにする口実ができれば、IOCに請求が来るスポンサーや放送局への違約金を日本に負担させやすくなりますからね」(組織委員会関係者)

 IOCに完全に足元を見られている日本。五輪中止シナリオが進行する中、森氏の不在を嘆いても「時すでに遅し」である。

 半ば感情論で森氏を降ろしたツケは、ブーメランのようにIOCとの交渉のテーブルに回ってくる。五輪問題を取材する民放局ディレクターが懸念材料を解説する。

「バッハ会長が断固拒否していた、開閉会式の簡素化をひっくり返した森氏ほどの剛腕を発揮できる人材はいない。IOCの担当役員や弁護士との交渉は難儀になるでしょう。中止になれば、IOCにも世界中の放送局から放映権料にかかる違約金が降りかかってくる。アメリカの放送局NBCだけでも約1200億円と言われています。放送局としては五輪放送分の広告枠もほぼ完売済みなので、さらに取引先からの違約金も問題化してくる。交渉事でしくじれば、違約金リレーのアンカーに位置する日本には、世界中の手数料が上乗せされた膨大な請求額を背負うことになるかもしれません」

 無論、国外だけではない。五輪開催のために国内でかき集めたスポンサー料の返済も求められる。

「国内の67社の企業から計3500億円の返金と違約金が発生します。さらに、収入の柱として見込んでいたチケット代900億円の払い戻しや延期時にIOCから分配された拠出金850億円の返還義務も発生します」(組織委員会関係者)

 とかく中止による収益の喪失ばかりに目が向きがちだが、五輪開催のために投資してきた莫大な公金を忘れてはならない。

 昨年12月22日に発表された五輪の会計報告である「組織委員会予算バージョン5」によると、五輪運営にかかる「直接経費」の合計額は1兆6440億円に上るのだ。

「このほかにも、各官庁の発表ベースになりますが、東京都が約7300億円、国が約1兆600億円を既存施設の改修やバリアフリー化などの『間接経費』として計上しているんです」(社会部デスク)

 このままでは都市景観やコロナ対策を整備するために、合計3兆円超の投資をドブに捨てることになるのだ。おまけに東京から離れた地方自治体にも、五輪中止の影響は及ぶ。

「ホストタウンとなる各自治体は、姉妹都市を持つ国などの合宿や交流イベントのための予算を立てている。しかも、コロナ対策により通常の20~50%の予算を上乗せしているといいます。体温計や消毒液、ボランティアスタッフの派遣には相当なカネがかかるんです」(社会部デスク)

 コロナ対策で神経質になっている地方自治体としては、外国人の来日そのものを断りたい。何よりムダ金を少しでも食い止めるためにも、中止にするなら早く決めてくれ、というのが本音だろう。

 これらの負担は、時間差で国民から徴収する算段のようだ。政府関係者が耳打ちする。

「政府は『五輪中止税』なる名目の税金を新設する計画を立てています。東日本大震災の復興のために課せられた『復興特別税』のように、所得税や住民税に上乗せする形で徴収されるようです」

 莫大な五輪マネーは「オールジャパン」での穴埋めが避けられない情勢なのだ。

※「週刊アサヒ芸能」3月4日号より

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