年齢を重ねるごとに血圧は上がり、深刻化すれば突然死などの不安がつきまとう。酒を控え、食べ物に気を配り、生活習慣を見直す努力を重ねてなお、高血圧に悩む中高年は多い。なんとか医者と薬の世話にならずに済む方法はないものか。そのヒントは「奇跡の木」にあった。
人間の体の基本は「血液」だ。全身の細胞に酸素や栄養分を運び、不要になった二酸化炭素や老廃物を回収する。いわば上下水道やガス管、電線などの機能を全て果たしている「体のライフライン」。だからこそ、健康診断では、まず最初に血液検査を行うのだ。血糖値、コレステロール値、赤血球に含まれるヘモグロビンの量、血液に含まれるたんぱく質の量などの項目をチェックするだけで、その人の健康状態がわかる。血糖値が高ければ糖尿病の危険があるし、悪玉コレステロールがたまっていれば、血管内壁に蓄積して道をふさぎ、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞などの循環器疾患が生じやすい。
だが、それより簡単に計測が可能で、血液や血管の健康状態をチェックできるのが「血圧」なのだ。都内で開業する内科医によれば、
「血圧とは血管の内側にかかる圧力を測定したもので、高血圧には肥満、塩分の取りすぎ、ストレス、飲みすぎ、喫煙など、さまざまな要因があります。動脈硬化から脳卒中、心臓病などに進むリスクが高い。しかも、ほとんど自覚症状もないのが怖い」
つまり、高血圧を侮ってはいけないのだ。ところが国が行った健康調査では、なんと約4300万人、日本人の3分の1が高血圧、あるいはその予備軍といわれている。しかも、冬が特に危険シーズンだという。内科医が続ける。
「寒いと血圧を調節する交感神経が刺激され、血管を収縮させます。冬は鍋物など塩分の強い食事が増えるうえ、発汗が少なく、運動不足で体重が増えてしまうこともあるでしょう」
だからといって、安易に降圧剤で血圧を下げると、血液が十分に流れなくなって酸素不足を起こし、めまいやふらつきが起きる可能性がある。ならば、高血圧向けの健康食品は数多く出ているが、どれが体に負担をかけず、ちょうどいいバランスを保ってくれるのだろうか。
ポピュラーな原料といえば、ヨモギだ。ヨモギには造血を助け、サラサラにしてくれる効能のあるビタミンKがたっぷり含まれ、余分な悪玉コレステロールも掃除してくれるといわれる。また、杜仲の葉を乾燥して煎じた杜仲茶にも、副交感神経を活性化し、神経をリラックスさせて血管を広げる働きがある。
これについて医療ジャーナリストが、さらに注目すべき情報を伝えてくれた。
「日本ではまだ広く知られていませんが、ヨモギや杜仲茶よりも注目すべきものがあります。それが熱帯雨林地方に生える、モリンガという植物。血液をサラサラにして、血圧を安定させる働きがあるもので、『奇跡の木』と呼ばれるスーパーフードです」
モリンガの原産は北インド。アフリカや東南アジアなど熱帯・亜熱帯に生息するワサビノキ科に属する植物だという。医療ジャーナリストによれば、
「インドの伝統医学アーユルヴェーダでも、5000年以上前から実際に『300の病気を予防する薬箱の木』と呼ばれて珍重された生薬。かのエジプトの女王クレオパトラもその美しさと健康を維持するために、肌にモリンガが原料のオイルを塗り、モリンガの葉で作ったお茶を飲んでいたといいます」
花は強壮剤などに使われ、根は整腸剤、種は疲労回復や胃潰瘍の薬、そして葉が免疫力を高め、体全体のバランスを整えてくれるという。木全体が薬効の塊のようなものだが、そもそも注目され始めたのは、ガン予防に有効とされたことからだった。
ここ数年、たんぱく質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維の6大栄養素に次ぐ第7の栄養素として、植物がみずからの身を守るために作り出す色素や香り、苦みなどに含まれる成分「ファイトケミカル」が脚光を浴びている。
モリンガの大きな特徴は、その葉の部分に多種多様なファイトケミカルが含まれていること。ファイトケミカルにはガンに打ち勝つ免疫力、自然治癒力があることがアメリカの国立ガン研究所でも認められており、モリンガに含まれる辛み成分のイソチオシアネートには、独自の抗ガン作用があるといわれる。
「これを研究するうち、副産物として、どうやら高血圧の抑制にもつながることがわかったのです。モリンガには、高血圧気味の人が血圧を下げるのに役立つGABAが豊富に含まれています。GABAとは、玄米や味噌などに含まれるアミノ酸の一種で、人間の体内では主に脳に存在している。これがストレスを感じた時に放出されるホルモン、交感神経を抑制して血管を収縮させるノルアドレナリンの分泌を抑え、血管の収縮を抑制する作用があるのです」(医療ジャーナリスト)
すなわち、GABAにはリラックスした時に脳から発せられるアルファ波を増加させる働きがあり、ストレスを緩和させるというわけだ。だから無理なく血圧を下げられる。
ちなみに、モリンガの葉には、他にはちょっと類を見ないほどの栄養素も高い含有量で見つかった。ざっと挙げるだけでも、食物繊維はバナナを大幅に上回り、ビタミンB2は小松菜を、カルシウムは牛乳を、鉄分はワカメを、ビタミンB1は豆乳を凌駕‥‥といったように、栄養素たっぷりといわれる一般食品それぞれと比較しても破格なのだ。
「モリンガの青葉は、粉末状に加工したものが流通しているので、お湯や水で溶かすなどして飲めばいい。お茶や青汁のようなものです。モリンガの風味はヨモギに近く、味は香ばしいコーン茶に似ていますね」(自然食研究家)
300の薬効、あるいは栄養素の豊富さに目をつけて、国連世界食糧計画では途上国の飢餓対策として、モリンガの植林を推奨しているほど。「世界のスーパーフード」と呼ばれるゆえんである。
※「週刊アサヒ芸能」2月4日号より