形状は3色ボールペンなのに赤字しか書けない。こんなヘンテコなボールペンを売り出したのが、長崎県島原の島原鉄道(しまてつ)だ。かねてからコロナ禍の厳しい経営状況がささやかれていたが、そのコピーにはこうある。
「赤字の鉄道会社だからこそ作れた珠玉の1本!!」
自虐ネタはさらに凝っている。値段は「赤字覚悟の550円」とあり、しまてつの赤字経営を示した折れ線グラフが印刷された台紙が付いてくる。ちなみに芯は0.5ミリ、0.7ミリ、1.0ミリの3つだ。
この逆転の発想が「面白い!」とウケた。11月21日に発売されるとSNSで話題となり、初日だけで1000本近くが売れ、10日ほどで5000本が完売したという。
同じく赤字ローカル線を自虐で救ったので有名なのが、千葉県の銚子鉄道だ。同電鉄は早くも1995年に本業とは無縁の「銚子電鉄のぬれ煎餅」の製造・販売を始めた。
銚子は言わずと知れた醤油の名産地。世間で濡れせんべいがヒットしていたので、元専務が「ウチでも作れるんじゃないか」と発案、最初は手焼きだった。そして、公式サイト上で「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と訴えたことで話題に。すると鉄道事業収入のおよそ2倍となる約2億円の売上を誇る“看板事業”となった。
その後、最近も「まずい棒」や映画「電車を止めるな!」の制作などでその都度、笑いを取って「副業」に勤しんでいる。
「こうした『自虐アプローチ』は実は古くから行われていて、銚子電鉄はまさにその一例ですが、特にここ最近はその傾向が広がりつつあります。12年からタレントの有吉弘之を使って広島県が始めた『おしい!広島県』や『スタバはないけど、スナバはある』(鳥取県、16年)など、数年前には地方自治体が地方格差を逆手にとってこの手法をよく採用したものです」(経済ジャーナリスト)
19年公開の映画「翔んで埼玉」の大ヒットもこの流れにあると言える。
また昨年は、「♯自社製品を自虐してみた」というハッシュタグを付けて自社製品を自虐的アプローチでPRする企業が相次いだ。コンビーフのノザキの「ぶっちゃけ肉より高い。」、ぺんてるの「(ペンの名前に)自社名、つけすぎ問題。」、「(子供の男女のマスコットキャラクターに)『名前あったのか』、とよく言われる。」、「ガリガリ君」があまりにも有名な赤城乳業のみかんアイスキャンディー「ガツン、とみかん」の「ガリガリ君より売れてないのに20周年」などだ。
17年には日清食品から、カップヌードル・どん兵衛・UFOでかつて販売したけど売れなかったバージョンを「存在をなかったことにしたい“黒歴史”がある」との自虐風のコピーで紹介。「日清の黒歴史トリオ(サマーヌードル・だし天茶うどん・熱帯U.F.O.)」として売り出したこともある。
うそ、大げさ、まぎらわしいといった広告が問題視される時代だからこそ、こうした企業の“本音”が消費者の心をくすぐるのだろう。
(猫間滋)