東北楽天ゴールデンイーグルスの涌井秀章が移籍初勝利を挙げたのは6月24日の日ハム戦だった。昨季は二軍落ちも経験したベテランの復活に三木肇監督もご満悦だったが、この日の勝利はタイトル争いにも大きな影響を与えそうだ。
「涌井は7回で交代していますが、8イニング目も行こうとし、ベンチ前でキャッチボールを始めていました」(スポーツ紙記者)
7回を投げ、被安打4失点2。先発投手としての責任は十分に果たしていた。
その姿に三木監督だけではなく、他コーチたちも「次(の登板)があるから」と何度も宥めていた。この楽天首脳陣の声掛けは意義深い。
「もともと、涌井は『投げたがり』です。ロッテ時代は年齢との戦いになり、長いイニングを投げさせてもらうことも少なくなりましたが、移籍後は『200イニング以上を投げる』という目標を立てて調整してきました」(球界関係者)
スタミナ面の強化を心掛けてきたのではない。シンプルに「投球数を少なくするにはどうしたらいいか」を考え、シンカーの習得と精度アップを目指してきた。同日は7イニングを投げたが、トータルでの投球数は104球。シンカーで打ち損じを誘うベテランらしいピッチングも見せてくれた。
「現代の野球スタイルに逆行しますが、涌井は1イニングでも長く投げたいとずっと考えてきました。勝っているときはリリーフ陣を休ませることができたと称賛されますが、負けが込んでくると単なるワガママとしか映りません」(前出・球界関係者)
24日の「次がある」という首脳陣の声掛けは、涌井の性格を理解したものである。
「涌井のようなイニングイーターを目指す先発投手が復活すると、沢村賞の選考も好転するはず。近年、勝ち星、防御率の面では申し分のない成績を残していても、投球回数が少ないため、選考委員たちは頭を抱えていました」(ベテラン記者)
涌井獲得に動いたのは、石井一久GMだと言われている。石井GMは現役時代、恩師・野村克也氏のもとで多くのベテランが復活するのを目の当たりにしてきた。相手選手の気持ちを理解し、的確な声掛けをすることが野村再生工場の極意だったのかもしれない。
涌井がローテーションを守りきれば、100球メドで先発投手は交代という時流も変わりそうだ。
(スポーツライター・飯山満)