ここからは実践編のスタート。まずは、行きの電車からだ。
【1】人とぶつからないように乗り降りする
まず、降りてくる乗客の動きをしっかりと認識するために視覚系が使われる。次にどのタイミングで乗り込み、どの位置に自分の場所を確保するのかを考えながら動くため、思考系と運動系も働く。
「これで『高次脳機能』スイッチオンの状態になります。すし詰め状態の通勤電車では、スムーズな乗り降りはなかなか難しいかもしれません。その時はトラブルにならないように周りに配慮するだけでも十分。肩や荷物が人に当たらないようにしたりして、回避しようとする行為の最中、脳内では運動系と感情系もフル回転しています。朝から複数の脳番地を使うことで脳は覚醒しますし、日頃から感情系を動かすことで、考え方の柔軟性を養うこともできます」
【2】荷物を棚の上に置く
運よくつり革付近まで行ければ、カバンを網棚に置く。一見、面倒な動作だが、これが脳に効くのだ。
「抱えて持つような無意識の動作と違い、『上に上げよう!』という意識を働かせます。これを繰り返し行うと、意欲を高める思考系を活発に使うようになります。同時に、置くという動作は視覚系や運動系に働きかけます。さらに『落ちないだろうか』『忘れないだろうか』という気持ちになるものですが、脳科学的には、この心が落ち着かない体験が感情系や記憶系なども刺激し、新たな『脳の枝ぶり』(脳番地の成長のさま)を作り、脳の成長を促します」
【3】目を閉じて、片足で立つ
カバンを網棚に置いたら、次は両手でつり革につかまり、片足を床から数センチほど浮かしてみよう。
「揺れる電車の振動は頭頂部にある運動系脳番地を刺激するだけでなく、小脳を刺激し、右脳と左脳を同時に働かせる調整力を高める効果があります。さらに目をつむれば、バランス感覚を養え、『脳の覚醒効果』と『集中力』を高めます」
この時、しっかりと両手でつり革をつかもう。安全確保のためだが、揺れた拍子に隣の女性から痴漢だと思われたらヤバいぞ。
始発駅から座って通勤、なんてサラリーマンも寝てばかりいないで、脳トレに挑戦してみたい。
【4】車内アナウンスをリピートする
一見すると簡単すぎると思いきや、記者も通勤電車で、あらためてリピートしようと構えると、これが意外に難しい。特に複数の乗換案内情報が流れるとお手上げムードだ。
「聴覚系、記憶系、伝達系が強化されます。慣れてきたら声の主の車掌さんを想像するのもいい。視覚系や理解系が刺激されます」
【5】広告の文字を逆さから読み、記憶する
これも回文などを得意としていないと苦戦する。
「時間を制限することで、記憶系がより活性化しますし、声を出さずにリピートすることも、脳に大きなメリットになります。伝達系はメッセージを伝えるだけでなく、反芻する時にも働きます」
最初は人の名前からスタートしてもいい。
【6】乗り換え前後に本を読む
とかく通勤時間が長いと乗り換えが苦痛となるが、脳トレの視点からは、脳に刺激を与える格好の時間だという。本を閉じて電車を降り、乗り換えのために歩く間、読んでいた内容を思い出しつつ、その先の展開を予測するのだ。
「思い出すという脳内の作業に負荷がかかり、記憶系が強化されます。同時に先の予測で理解系や思考系も刺激され、内容が頭に定着しやすい」
本のジャンルを、あえてふだんは読まないものにすることで、アイデア発想のきっかけにもなる。
「仕事とまったく関係ないことをしている時や新鮮な体験をしている時に、突然浮かぶものです」