佐藤優「ニッポン有事!」ロシアから制裁対象となった あの問題外交官の小説を書く

 3月3日、ロシア外務省は、岩屋毅外相ら日本人9人のロシアへの入国禁止を発表した。

〈中込正志駐ウクライナ大使や松田邦紀前駐ウクライナ大使も含む。「日本政府による制裁への対抗措置」(外務省声明)といい、現地メディアは1月の対ロ追加制裁を受けたものと伝えた。

 他の対象者は▽国際協力機構(JICA)の原昌平理事▽JICAウクライナ事務所の松永秀樹所長▽IHIの井手博社長▽いすゞ自動車の南真介社長ら。官民を挙げたウクライナ支援に反発したとみられる。〉(3月4日「時事通信」)

 ここで注目されるのは、松田邦紀氏を除く全員が現職であるということだ。現職の人物にロシアが制裁をかけたのは、当該人物の品性や行状に問題があったからではなく、仕事での機能がロシアの国益に反すると判断したからだ。対して、松田氏が前職であるにもかかわらず、制裁対象になったのは人物に問題があると考えるのが妥当であろう。この松田氏は、鈴木宗男衆議院議員や筆者と特別の因縁がある人物だ。

 2006年10月3日に当時衆議院議員だった鈴木氏が松田氏に関する質問主意書を提出したことがある。

〈一 二〇〇六年九月二十五日の奥付で、講談社から衆議院議員鈴木宗男と休職中の外務省職員佐藤優氏が『北方領土「特命交渉」』(以下、「本書」という。)を出版したが、外務省はその事実を承知しているか。

 二 「本書」二百六十二頁から二百六十三頁にかけて松田邦紀外務省欧州局ロシア課長の言動について、鈴木宗男の発言として、

「たとえば、松田さんに関しては、森喜朗前総理に文字通り涙を流して、『サンクトペテルブルグ・サミットまではぜひロシア課長をやらせてください。いま課長職を外されると鈴木宗男の攻撃に負けたことになり、私の将来がなくなる』と頼み込んできた。私はこの話を森さんから直接聞きました。こうした自己保身に汲々とする人物にまともな外交ができるはずがないのです。」

 との内容が記載されていることを外務省は承知しているか。

 三 二に記された松田邦紀ロシア課長の言動は事実か。かかる働きかけを松田課長が国会議員に対して行ったことは適切か(以下略)〉(衆議院HP)

 この質問に対して、同年10月17日の閣議で以下の安倍晋三首相の答弁書が決定された。

〈一及び二について 外務省として、御指摘の事実は承知している。

三について 外務省として、御指摘の事実はなかったと承知している〉(同上)

 外務省は松田氏が森元首相に「泣き」を入れた事実はないと言っているが、筆者と鈴木氏は森氏から事実関係について確認している。ところで松田邦紀氏が近く某通信社から回想録を出版するという情報を得た。この機会に久し振りに小説を書いてみることにした。品性下劣で欲望の固まり、「殺人以外の全ての犯罪に手を染めた男」(全国紙記者)と言われたある外務官僚からヒントを得た「松尾国男大使の華麗なる半生」という物語だ。

(この項続く)

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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