ガザの一般住民はますます悲惨なことに/池上彰「トランプ独裁」をズバリ解説(4)

──その煽りをもろに受けるのがアメリカに軍事的援助を受けているウクライナです。

 はい、トランプはこれを早期に停戦しろと言っているわけです。今トランプの周辺が考えているのは、今の時点で停戦し、そこを休戦ラインとし、前後何キロかは非武装地帯にする。そこには一切軍備を置かない。北朝鮮と韓国の間の非武装地帯と同じものをロシアとウクライナの間に作ろうという構想です。

 ところが現在ウクライナは、領土の20%をロシアに占領されています。今停戦したら、多くの領土をロシアに取られてしまいます。この案にゼレンスキーが反対したら、今後一切援助しない、あとは勝手にやれ、と。こうなるわけですよ。

──やはりアメリカの援助がなければウクライナは負けてしまうのですね。

 ウクライナは4万人を超える死者を出しています。ここで停戦すればこれ以上死者を出さないで済む。でも、その一方で、停戦案を呑めば、結果的によその国に一方的に攻め込み、占領したロシアを認めることになってしまう。そこに最大のジレンマがあるわけです。

──中東ではシリアのアサド政権が崩壊しました。中東情勢はどうなるでしょう?

 今のシリアはシャーム解放機構がとりあえず暫定政権を作りました。しかし、このシャーム解放機構のリーダーは元々アルカイダで、アメリカからテロリストとしてお尋ね者になっていました。今回突然、自分たちは穏健でシリアを再建するために国際的な援助が必要だ、って言い出した。アメリカにしてもヨーロッパの国も、信用できるのか疑心暗鬼なんですよ。

──単純に「シリアの春」とは手放しでは喜べないのですね。

 そうなんです。さらにイスラエルは、このどさくさ紛れにシリアを500回にわたり空爆しました。これまではヒズボラがイスラエルを攻撃していましたが、ヒズボラの武器はイランからシリアを通ってレバノンのヒズボラに渡っていた。だから、膨大な軍備を全部空爆で破壊したのです。

──火薬庫・中東の戦火は広がらないか心配です。

 ヒズボラの脅威がなくなったわけですからイスラエルは安泰です。安心して、ガザのハマスの攻撃に力を注ぐことができます。

──イスラエルのガザへの攻撃はまだ終わらないということでしょうか?

 バイデン、あるいは選挙で戦ったカマラ・ハリスはガザで多くの一般人の犠牲者が出ていることに関し、イスラエルに対し人道的な措置を求めました。ところがトランプは「やつらはテロリストの味方をしている」と反論したんです。トランプが大統領になれば、ガザへの人道的措置などと言わず、徹底的に潰せと言うでしょう。ですから、今後もガザの一般の住民を次々と犠牲にしながら、空爆は続いていく。ますます悲惨なことになりますよ。

──トランプ独裁の脅威が身に沁みました。次回ではアジアを含め、日本への影響についてお願いします。

 はい、やってみましょう。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。

*週刊アサヒ芸能1月16・23日号掲載

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