先日、欧州諸国で販売されている「ツナ缶」の水銀汚染が、規制値以上になっていると報じられた。果たして、食卓の強い味方「ツナ缶」はキケンな食べ物になってしまったのか、それとも日本で製造されているものは安全なのか─。
10月30日、AFP通信が報じた「欧州諸国で販売されているツナ缶の水銀汚染」。海洋保護団体と食品安全に関する消費者保護団体が、無作為に選んだ148のツナ缶について研究所で検査した結果、半数以上が水銀規制値を超過していたというのだ。
前記の2団体は「危険なレベルの水銀に汚染されている」と主張し「各国政府と小売店に『緊急』対策を呼びかけている」という。
水銀と聞いて思い浮かべるのは、水俣病ではないだろうか。1956年、熊本県水俣市で報告された広範囲にわたる健康被害で、1968年、原因物質がチッソ水俣工場の廃液に含まれたメチル水銀化合物であると認定された。メチル水銀の過剰摂取は中枢神経に障害を与え、妊婦が摂取した場合は胎児に悪影響を及ぼす場合もあるという。
管理栄養士の菅原由美氏は「厚生労働省からは、妊婦さん向けにアナウンスもされています」と前置きして、こう続ける。
「そもそも水銀は自然界にあるものです。中でも魚は食物連鎖によって自然界の水銀が取り込まれ、特にマグロは、その濃度が高くなるとされています」
厚生労働省の妊婦向けアナウンスでは、水銀摂取許容量は体重1キロあたり1週間に総水銀4マイクログラム(1マイクログラムは1グラムの100万分の1)。水銀濃度でマグロ類のトップのクロマグロやメバチマグロは80グラム(だいたい刺身1人前)を週1回、ミナミマグロ(80グラム)は週2回までを上限の目安としている。
「つまり、ミナミマグロは1週間でお寿司8貫程度ならOKということです。毎日のようにお寿司を食べる人でもない限り、心配しなくてもいい数字と言えますね。さらにアナウンスには“マグロの中でもキハダ、ビンナガ、クロマグロの幼魚、ツナ缶”には摂取量に特に注意は必要ないと書かれています」(菅原氏)
ツナ缶なら、いくらでも食べていいということか。
「私の記憶の中でも、これまで日本の栄養士会で“ツナ缶が危険だ”という報告はされていませんし、小さい子供を持つ保護者の方への食指導の際、ツナ缶を推奨することもあります。常温で持ち歩けますし、保存期間も長い。加熱せずに食べられて調理も手軽ですからね。とはいえ、水銀濃度がまったくゼロというわけではありません。それでも“1週間に25缶以上食べる人は注意が必要”といったレベルの濃度です」(菅原氏)
さらに、北海道立消費生活センターが公開しているツナ缶に関する資料では、各メーカーのツナ缶の水銀濃度を徹底調査している。
「それによると、ビンナガマグロが原材料の『シーチキンファンシー』(はごろもフーズ)や、キハダマグロが原材料の『シーチキンL』(同)、同じくキハダマグロの『ライトツナフレーク』(いなば食品)、原材料がマグロと書かれている『まぐろフレーク味付』(マルハニチロ)など、計9商品の総水銀濃度の平均が0.12ppmという結果でした。1973年に設定された国の暫定規制値である0.4ppmを超える商品はなく、スーパーでおなじみのツナ缶は軒並み安全と言えます」(菅原氏)
(つづく)