「赤チン」の愛称で知られる消毒液「マーキュロクロム液」の国内生産が2020年末で終了することが明らかとなった。幼い頃に膝を擦りむいて保健室で赤チンを塗ってもらった記憶のある昭和世代も少なくないだろうが、あの懐かしの消毒薬が姿を消そうとしている。
国内唯一となったメーカー「三栄製薬」が12月24日の製造、25日の包装分をもって製造を終了することを発表したため、赤チンはその役目を終えることが決定的となった。赤チンはアメリカの医学研究者であるヒュー・ヤング博士が発見し、1940年頃に日本へやって来たとされる。見た目が赤いヨードチンキのため“赤チン”と呼ばれるようになったが、実際にはヨード(ヨウ素)もチンキ(エタノール)も入っていない。
赤チンは傷口に塗ってもあまり滲みず、また治療していることが一目瞭然だったことから、学校や家庭に欠かせない存在になっていった。しかし、ある時を境に急激に姿を消していったのだが、その理由とは何だったのだろうか?
「赤チンの原料であるマーキュロクロムを製造する工程で、公害病に認定された水俣病の原因でもある水銀が発生することから、1973年に国内で原料の製造が中止されました。その後、各メーカーは公害の原因となった水銀とは異なる、毒性の弱い水銀を含むマーキュロクロムを輸入し、赤チンの製造を続けました。70年代から80年代に掛けて水俣病訴訟が続く中で水銀に対する印象の悪化は避けられず、赤チンは『マキロン』などの消毒液にその座を奪われていったのです。そして、日本主導で採択した国際条約『水俣条約』で2021年からは水銀を使った製品の取引が世界的に規制されることが決まっていたため、国内最後のメーカーとなった『三栄製薬』も年内いっぱいで製造を終了したというわけなのです」(経済ジャーナリスト)
もう膝を真っ赤に染めた子供の姿を見かけることがなくなるというのも、少し寂しい気もする。
(小林洋三)