米大統領選でのトランプ氏勝利を受け、11月6日夜、石破茂首相は首相官邸で記者団に対し「トランプ氏の勝利に心からのお祝いを申し上げる。接点を早急に持つべく努力したい」と語り、会談の早期実現を目指したいと述べた。
トランプ氏が前回勝利した2016年には、当時の安倍晋三首相が他国に先駆けトランプ氏と会談。それが以降の蜜月関係構築のきっかけになったことはよく知られる話だ。今回も各国がこぞってトランプ氏との早期会談実現に動くとみられるが、政府関係者によれば、「アジア版NATO」構想なども含め、「石破氏の発言がトランプ氏に理解されるかどうか甚だ疑問」との声がある一方、「ひょっとしたら“変人”どうし相性が合うかもしれない」などという希望的観測的な声も少なくないという。
トランプ氏は今回の選挙戦で、自分が復活した場合にはバイデン政権の戦略を見直すことを公約に掲げてきたが、とりわけ外交・安全保障政策では大転換を図るのではないか、との見方が根強い。というのも、トランプ氏は第一次政権下にあった17年から21年の4年の間に、WHO(世界保健機関)や気候変動対策の国際枠組みであるパリ協定から離脱。さらにTPP(環太平洋経済連携協定)や国連人権理事会からも離脱など、持論である『米国第一主義』を確立するため、従来の大統領では考えられないような方針を何の躊躇もなく次々に打ち出してきたからだ。
「そうした意味では、本当に何をするか予測ができない人物。一方のハリス氏は基本的にバイデン政権を継承するとしていたので、今回のトランプ氏返り咲きで日本政府としても優先順位を大きく変更せざるを得なくなる可能性はあるでしょうね」(外報部記者)
日米地位協定の見直しや「アジア版NATO」構想などを掲げ、安全保障を専門とする石破氏にとって「日米関係の見直し」は譲れない一線だが、政府筋からは「逆にトランプ氏側が防衛戦略見直しを迫ってくる可能性もありそうだが、当然その場合、日本にさらなる防衛責任と負担の拡大を求めてくることになる」といった懸念の声が多く、現実となった場合、具体的にどの部分で折り合いをつけるかが最大の問題になるだろう。
「そこで重要になるのが、結局は両者の人間関係。言うまでもないことですが、第1次トランプ政権下、日本が米国と強固な同盟関係を維持・発展できたのは、安倍元首相がトランプ氏と個人的な信頼関係を構築していたからに他ならない。そして同時に、安部氏はその姿を国際社会にアピールし日本の存在感を世界にみせつけてきました。安部氏の外交には、そんなしたたかさがあったということ。石破首相が対トランプで、そんな安倍氏のようにはなれないというのが現実です」(同)
石破氏のスタイルは真正面から畳みかけていく理論先行型で、実務最優先とは言い難い。となれば、地位協定改定を掲げる石破氏に対しトランプ氏が、とてつもなく大きなバーターを求めてくることは想像に難しくない。
「岸田政権時代、すでに防衛費を27年度に国内総生産(GDP)比2%にする防衛力強化方針が決定していますが、トランプ氏復活でそれが何の躊躇もなく変更になる可能性も十分ある。結局、石破氏に安部氏のようなしたたかな交渉能力がなければ、言われるがままに従わなくてはならなくなる。そういう意味では、今回のトランプ氏の帰り先で、石破氏の政治力、そして個人の人間性の真価が問われることは間違いないでしょう」(同)
最後の頼みはやはり、“変人”どうしの相性か。
(灯倫太郎)