講談社が発行する漫画雑誌「モーニング」に掲載された「社外取締役 島耕作」が沖縄で大きな問題になっている。
〈講談社が(10月)17日に発売した漫画雑誌「モーニング」に掲載されている人気作品「社外取締役 島耕作」の中で、名護市辺野古の新基地建設に抗議する側が、日当をもらっていると表現するシーンが描かれていた。Ⅹ(旧ツイッター)では「根拠を示すべき」「デマだ」などと指摘するコメントとともに広く拡散されている。
抗議活動する沖縄平和運動センターの山城博治さんは、市民が日当をもらっているなどの事実を否定し「工事が始まってもう10年。もし日当をもらっていたら今ごろ豪邸が建っている。県民愚弄もはなはだしい。作者に抗議したい」と話した。本紙取材でもそのような事実は確認されていない。
作者は弘兼憲史さん。画業50周年として、今回のモーニングは島耕作が表紙になっている。漫画では、主人公の島耕作らが飲食をしながら辺野古の埋め立て現場を見渡す場面が描かれている。登場人物の女性が辺野古の埋め立て工事について説明するシーンで「抗議する側もアルバイトでやっている人がたくさんいますよ。私も一日いくらの日当で雇われたことがありました」と説明している。〉(10月20日「琉球新報」電子版)
漫画には、実在の人物や団体名とは関係ないという但し書きが付いているものの、「辺野古埋め立て地」や「普天間飛行場」など具体的な固有名詞が出てきているので、名護市辺野古の新基地建設現場を描いていることについては言い逃れが出来ない。
沖縄の抗議の激しさに驚いた弘兼憲史氏と講談社は「白旗」を掲げることにした。
〈発行元の講談社は21日、琉球新報の取材に対し、確認が取れていない「伝聞」だったとして、「読者の皆さまにお詫びするとともに、編集部と作者の協議の上、単行本掲載時には内容の修正をいたします」と謝罪コメントを寄せた。
回答書面は作者の弘兼氏と連名。講談社は、作者と担当編集者が取材で沖縄県を訪れた際に複数の県民から「新基地建設反対派のアルバイトがある」という話を聞き、作品に反映させたと説明。一方、「当事者からは確認の取れていない伝聞でした」として、作中で断定的な描写をしたことに「フィクション作品とはいえ軽率な判断だった」と謝罪した。
講談社は琉球新報に寄せたコメントをモーニングホームページでも掲載している〉(10月21日「琉球新報」電子版)
辺野古新基地建設問題について、少し取材すれば、過去に「日当問題」を巡る名誉毀損裁判があり、日当を払っているとの主張について裁判所が「根拠として薄弱」「真実と信じるについて相当の理由があったとはいえない」と判断し、最高裁で確定したことがわかるはずだ。講談社の危機管理能力の弱さが露呈した。この背景には、日本の出版界における沖縄に対する根源的な無関心がある。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。