昨年10月以降、イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区を実行支配するイスラム主義組織ハマスとの戦闘が続いているが、レバノンやイエメン、イラクやシリアを拠点とする親イランのシーア派武装勢力がハマスとの共闘を宣言し、反イスラエル闘争をエスカレートさせ戦況は中東全体に拡大している。イスラエルのネタニヤフ政権も強硬姿勢に撤し、今後の行方が危ぶまれている。
イスラエルとレバノンを拠点とする親イランのシーア派武装勢力ヒズボラとの軍事的応酬が続くなか、イスラエルは7月末、初めてレバノンの首都ベイルートの郊外を空爆し、ヒズボラの最高幹部フアド・シュクル氏を殺害した。イスラエルが実行支配するゴラン高原では、この数日前にヒズボラによるロケット弾攻撃があり子供など12人が死亡したが、イスラエルによるとシュクル氏がこの攻撃を計画したとされ、報復の一環で攻撃を実行したと説明している。
また、時を同じくしてイランではペゼシュキアン新大統領の就任式へ参加するため、テヘランを訪問していたハマスの最高幹部イスマイル・ハニヤ氏が殺害された。7キロの弾薬がついた短距離飛翔体が深夜、ハニヤ氏が滞在する建物へ発射され大きな爆発が起きたというが、これはあくまでイラン側の言い分。実際は爆弾が仕掛けられていたとの報道もあり背後関係についてははっきりしていないが、イランはイスラエルへの報復を宣言している。
イランは4月、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の建物にミサイルが打ち込まれ、イラン革命防衛隊の司令官や軍事顧問ら13人が死亡したことへの報復として、300発以上のドローンやミサイルなどを発射するなど、イスラエルへの初の直接攻撃に踏み切ったが、今後はさらに強硬な対応を取ることが懸念される。
イランは中東各地の親イラン勢力を支援し、それらが最前線となってイスラエルに攻撃を加えているが、イスラエルに対して強硬な姿勢で臨まなければ、親イラン勢力に示しがつかない状況とも言える。一方、「イランの悪の枢軸との多正面の戦争状態にある」「どのような攻撃にも重い代償を課す」とするイスラエルのネタニヤフ首相は、仮にイランが軍事的な報復措置を講じればさらなる軍事行動に打って出るだろう。「第5次中東戦争」はいつ勃発してもおかしくない危機的状況にある。
(北島豊)