「国民が望めば…」ゼレンスキー大統領が領土放棄を匂わせ始めた弱気の背景

 今回のパリ五輪に約140人の選手団を派遣しているウクライナ。しかし、この数はソ連崩壊以降の同国五輪選手団の規模としては最小だとされる。

 7月24日、ビデオ演説で「戦争と全面的なロシアのテロ行為にもかかわらず、五輪の準備と参加をすることはウクライナ人にとってすでに成果」だと強調したゼレンスキー大統領は、返す刀で「今のロシアにとって唯一のスポーツは人を殺すことだ。世界は決してこれを許さない。ロシアはこの戦争で負け、このテロに負けなければならない」と改めてプーチン大統領を非難した。

 そんなゼレンスキー氏が、8月1日付のフランス紙「リベラシオン」で、2年6カ月にわたる戦争終結のため、ロシアとの対話・交渉に乗り出す意向を示唆したことに、驚きの声と波紋が広がっている。

 同紙のインタビューの中でゼレンスキー氏は、「ロシアが戦争を望む限り我々は最前線にいるが、ロシアが望めばこの問題を外交的に解決することもできる。ただし、(ロシアとの和平交渉で)ウクライナ領土の保全回復が必ず含まれなければいけない」と強調。さらに領土を譲歩して戦争を終息させる可能性について触れ、「ウクライナ領土保全に関するすべての問題は、ウクライナ国民の意思なく、大統領や特定人、または世界の他の大統領が解決することができない問題。これは憲法に背く。そのためにはウクライナ国民がこれを望まなければいけない」と、複雑な心境を吐露した。国際ジャーナリストが語る。

「プーチン氏が今年6月、和平交渉を始めるために出した条件は、ウクライナが南部クリミア半島と東・南部4州の領有権放棄、そして北大西洋条約機構(NATO)への加盟を断念すること。しかし、これは事実上ウクライナへの降伏要求で、仮に停戦合意が成立してもロシアが順守する保証はなく、軍備を整え再び侵略を始める恐れあるとして、ゼレンスキー氏はこの条件を全面拒否しました。すると7月4日、プーチン氏は停戦条件を、『不可逆的でロシアが受け入れ可能な措置を取ることに(ウクライナ側が)合意する必要がある』と強調。合意がなければ、停戦は不可能であると改めて述べ、結局、和平交渉は平行線をたどったまま物別れに終わるのではないかとみられていたんです」

 しかし24日、ウクライナのクレバ外相が中国で王毅外相と会談し、「ロシアとの対話と交渉を望んで準備中」という意を伝えたと中国側が明らかにしたことで、ウクライナ側の微妙な変化が見て取れることになったわけだが、

「ゼレンスキー氏は『11月5日の米大統領選挙の結果がどう出るかは分からないが、ハリス副大統領はバイデン大統領とは違う人物であり、トランプ前大統領が当選してもどんな対話が行われるか現在のところ分からない』と語っています。これはまさしくゼレンスキー氏の本音。つまり、米大統領選でどちらが大統領になっても、支援が先細りになることは目に見えている。ならば、戦争を継続するか否かの真意は国民に問うしかない。しかし、一度弱気になったリーダーの求心力が落ちることは必至ですからね。ゼレンスキー氏も、ここ1、2カ月が、いよいよ正念場になるかもしれませんね」(同)

 まさに進むも地獄、退くも地獄。ただただ、プーチン氏の高笑いだけが響いているようだ。

(灯倫太郎)

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