「我々は見守る必要がある。あとはロシア次第だ。どうなるか見てみよう」
3月12日、記者団に対し、停戦はロシアの対応次第だとしたうえで「前向きなメッセージを受け取っている」と述べたトランプ米大統領。加えて、ウィトコフ中東担当特使がウクライナのゼレンスキー大統領との間で合意した停戦案を携え、今週中にもモスクワを訪問しロシア側に停戦案受け入れを促すことを明らかにした。
「ウクライナは前日の11日、アメリカが提案したロシアとの30日間の停戦案を受け入れる用意があると表明したものの、当初ゼレンスキー氏は、空と海での部分的な停戦を提案していたといいます。しかし、アメリカの30日間停戦案は空と海に限定されず、全ての前線を停戦対象とするものだった。2月末のホワイトハウスでの大喧嘩以降、アメリカによるウクライナへの情報共有と軍事援助を一時停止される中、ゼレンスキー氏としてもこれ以上、アメリカと関係をこじらせるわけにはいかない。結果、今回のアメリカ案全面的受け入れとなったようです」(外信部記者)
停戦案受け入れにより、アメリカは11日の共同声明でウクライナへの軍事支援等の再開を発表。今後はロシアがアメリカの停戦案を飲むかどうかが焦点になるが、「あくまでも30日の停戦ということなら、ロシアにとっても軍部立て直しを考えればメリットになるはず。その先についてはまったくの未知数だが、一時休戦してもロシアに損はない。いったんは申し出を承諾するのではないか」というのが、多くの専門家の見方だ。
ロシアは2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始。現在、ウクライナ領土の約20%を掌握しているが、仮に停戦となる場合でもロシアがどんな条件を提示してくるのか、あるいはウクライナ側がその条件とどう折り合いをつけるのかを含め、全く読み切れない状況にある。そんな中、唯一モデルケースになるのでは、とされているのが「朝鮮戦争型」休戦だという。
周知のように、朝鮮戦争は1950年から3年にわたり朝鮮半島のほぼ全土が戦場となり、半島全土が焦土と化した戦争で、これにより韓国・北朝鮮双方の軍民あわせて300万人以上が亡くなったと言われている。
「朝鮮戦争は北朝鮮の指導者だった金日成が、朝鮮半島を社会主義国家として統一するため韓国に攻め入り、韓国軍や米軍が各所で敗退。そんな中、当時日本の占領統治中だったマッカーサーが北朝鮮軍の補給路を断ち同軍を北方に撤退させ、中国国境付近まで追い詰めた。すると今度は中国が人民義勇軍を派遣して戦線を北緯38度線まで押し戻し、結果戦線が膠着状態となり消耗戦に移行。1951年6月にはソ連が休戦を提案。2年後の1953年7月、板門店で米軍及び韓国軍と中国軍及び北朝鮮軍との間で休戦協定が結ばれたというわけです」(同)
以降70数年が経過するも、いまだ両国は停戦ではなく、あくまでも休戦状態なため、いつ戦争が再開してもおかしくない状態だが、一定の安定は保たれてきた。そのため、ロシアとウクライナも、このあたりが落としどころになるのでは、という専門家の声も少なくない。ただ、これまでにも簡単に前言を翻してきたロシアのこと。約束を継続できるかは未知数というしかない。しかも、トランプ大統領の任期は4年。トランプ氏としてもノーベル平和賞云々はともかく、戦争終結を公約として掲げてきた以上、なんとしても休戦に持ち込まなければ、米国民に対する信頼が揺らぎかねない。となると、トランプ氏の任期中だけ、というシナリオも十分あり得るというわけだが、果たしてプーチン氏はどんな答えを出すのだろうか。
(灯倫太郎)