6カ月ごとの輪番制により、7月1日から欧州連合(EU)議長国となったハンガリー。2日には同国首相で、かねてからロシア寄りの姿勢で知られるオルバン氏がウクライナのゼレンスキー大統領と会談、ロシアとの一時的な停戦と和平交渉の開始を検討するよう促したが、ゼレンスキー氏はこれを突っぱねた。
するとこの会談から4日後の5日、なんとオルバン氏は自称「平和使節団」としてモスクワでプーチン氏とも電撃会談。さっそくウクライナ外務省は「ウクライナによる承認や調整なく行われた。ウクライナ抜きの合意などありえないという原則は、おかすことができないものだ」と、不快感を露わにしたことが報じられている。
「2022年4月以降、EU加盟国首脳がロシア入りしたのは、オルバン氏が初めて。オルバン氏は長年、欧州の中でもプーチン氏に最も近い指導者として知られ、ウクライナへの軍事支援に関しても一貫して反対する姿勢をとってきました。会談後、プーチン氏と並んで演説したオルバン氏は、EUの議長国ではなく、あくまでも“ハンガリーの代表”という立場でのロシア訪問だったと強調していますが、EU当局や加盟国はスタンドプレーも甚だしいと非難轟轟。今後も米国などによる強い反発が予想されます」(外報部記者)
ところが、「EUの問題児」とも称されるオルバン首相のこと。8日、今度は中国を電撃訪問し、自身のフェイスブックに「キーウ、モスクワに続き、平和使節団の3番目の訪問地である北京に到着した」などと投稿。その足で習近平国家主席と会談してまたもやEU加盟国首脳らをイラつかせることとなった。
中国外務省によれば、習氏はオルバン氏によるウクライナ情勢への政治的解決推進に向ける姿勢を高く評価。「早期に停戦し、政治的解決を追求することがすべての当事者の利益になる。中国とハンガリーの基本的な主張と努力の方向性は一致しており、関係国と引き続き意思疎通を図っていく」とコメントした。
「オルバン氏と習氏とは、5月にブダペストで行われた首脳会談でも中国の巨大経済圏構想『一帯一路』を前進、経済連携強化を掲げた、いわば蜜月の仲。実はEU加盟国として初めて一帯一路に参加したのがハンガリーで、それが遡ること9年前の2015年のこと。19年からはブダペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道の建設が始まり、26年には完成が予定されています。この計画にはギリシャも参加しており、路線はアテネまで延びる見通しですが、そうなれば中国資本による人とモノの流れが一気にギリシャやハンガリーに流入することは必至。むろん、欧州全体では過度な中国資本流入が危険として警戒感を強めています。そんな欧州全体の流れに逆らい、自国の利益を優先し我が道を行くというスタンスを取り続けるのが、ハンガリーのオルバン氏なんです」(同)
輪番制とはいえ、そんな「EUの問題児」が議長国の代表となったことで、半年間、欧州全体がザワつくことは間違いないが、中国としてはハンガリーとの一帯一路の実績を強調することで他の欧州諸国を取り込みたいという思惑がある。中国、ロシア、ハンガリー、それぞれの思惑が蠢く上での停戦・和平交渉提案だけに、ゼレンスキー氏が猛反発するのも当然なのである。
(灯倫太郎)