世界が注目した台湾総統選の、台湾新総統に与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳氏に決まり、台湾の民意は中国との統一でも独立でもない「現状維持」を求めていることが明らかになった。
だが、台湾は本当に「現状維持」ができるのだろうか。
問題の一つは立法院(国会)で民進党が過半数を取れずにねじれが生じていることだ。中国の習近平政権は、台湾の政治がねじれにより不安定になり、民進党が思い描く政策が行き詰まり、かき回すチャンスは大いにあると踏んで身構えている。
二つ目の問題はそうした構造の中で、バイデン米大統領が台湾総統選の結果が出た直後に「台湾の独立を支持しない」と発言したことだ。この発言が台湾に大きな影響を与えたと、習近平政府は見ているはずだ。その意味でも、5月20日の就任式で頼新総統が何を語るか大いに注目される。
習近平政権は11月の米大統領選でトランプ氏が勝利すれば、この発言を外交、軍事の両面で戦略的に利用してくるだろう。「米国第一」を唱えるトランプ氏の米国は内向きとなり、米国が国際秩序を支えるべく発揮してきたパワーと意志が弱まる。米国はインド太平洋地域への関与を減らしていくことになるだろう。
この状況は、中国の安全と発展に必要な中国寄りの国際秩序を作る絶好のチャンスであるということだ。それは当然のように台湾海峡にも影響を及ぼす。
特に中国は軍事での示威行為を一段と強めるだろう。経済面でも中台の実質的な自由貿易協定である経済協力枠組み協定(ECFA)は一段と障害にさらされるはずだ。親米の立場をとる蔡英文政権時代、習政権は民進党の大票田であった台湾南部の主力産業である農産物の輸入に度々制限をかけてきた。
三つ目の問題は中国の内政がうまく行っていないことだ。中国経済が低迷していることを中国政府が否定しようが、もはや世界で中国の説明に納得する国はない。改革解放以来の危機に直面していると言っていい。
つまり、14億の国民が不満を膨らませ、将来の生活に不安を感じるほど政府の信頼感が低下している状況にある今の中国は、台湾武力統一を叫び続けるしかないのだ。台湾への武力行使を放棄するような態度を示せば、「一人独裁」の習近平政権とて、もちこたえることはできず、崩壊へつながる。
ただ、ハッキリしていることは習近平政権が「一つの中国」を叫べば叫ぶほど、中国の将来は不確実性を増すということだ。
(団勇人・ジャーナリスト)