投資の世界には「見切り千両、損切り万両」や「損は落とせ、さらば利益は大ならん」などの格言がある。いずれも、損失を拡大させないために含み損を抱えた株式を手放す「損切り」の重要性を説いたもの。ところが、シゲルさんには無用な説法だった。
「損切りはほとんどしません。要するに『いくら下がったから売る』みたいなルールはない。長い期間同じ株式を保有するケースは珍しくありません。信用取引なので一定期間が過ぎると強制的に売られてしまうので、『現引き』といって、代金を支払って株式の現物を引き取る方法で株式を保有し続けています。いわゆる“塩漬け”になっている含み損は合計2億円以上。数万株単位で保有している場合もあるから、含み損が数千万円になっている銘柄もある。ほら、見てくださいよ」
長期保有銘柄の口座を見ると精密部品メーカーA社で約560万円、地方銀行B社で約700万円など、サラリーマンの年収ほどの含み損が表示されていた。
「そもそも将来性を見込んで銘柄を選定しています。そういった基準が損切りのせいでブレてしまいかねませんよね。だから、損切りを癖にしたらアカンわけです。とはいえ、それができるのは含み損を抱えても投資に回せる潤沢な資産のおかげ。元も子もありませんが、元手がないことにはできない投資方法だと思います」
そんなシゲルさんの十八番が企業の決算を材料にした自称「決算プレイ」だ。
「企業が決算を発表する前後は儲けるチャンス。株価が上下にグネグネ変動しますからね。特に買われすぎや売られすぎのタイミングを逃してはなりません。これは『RSI』(相対力指数)で確認できます。大まかに30以下が買い、70以上が売りのタイミングです。また、いい決算を出しても市況の期待を下回れば『材料出尽くし』として株価が上がらない場合も‥‥。重要なのは実際の業績が予想を超えるかどうか。こればかりはみずからの頭で考えて導き出さないとアカンね」
思考に思考を重ねた千思万考はノートに書き綴られているという。
「決算が発表されるたびに、企業ごとに『A』~『C』の評価付けをしてメモします。それぞれに注釈を加えたり、『AAA』や『B+』のような細分化をしている。あと、取引後の反省もノートに記しています。取引履歴をノートに逐一メモして『なぜ勝ったのか』、『なぜ負けたのか』考えるんですわ。すでにノートは50冊を超えています」
デスクの上には常時3~4冊のノートが開かれていた。成功と反省の記録こそが何よりの財産なのだ。
(づづく)