日本の1万4000本に対し、アメリカ1万本。これは、私募・公募も合わせたファンドの本数の違いだ。いつまでたってもタンス預金が多く、「投資後進国」と言われる日本の方が多いという矛盾。人口を比べれば、アメリカの方が2億2000万人も多いにもかかわらずだ。しかし運用残高で見ると、日本はアメリカの20分の1だ。何かおかしいのだ。
素人が手を出すのには安心なのだが、「手数料が高い」「元本保証がない」「なかなか良いものが見つからない」などと玄人筋からはあまり評判がよろしくない投資信託。数ばかりが多いため、1本1本のパフォーマンスが悪く、結局は顧客本位になっていない。金融庁のHPの「本音が飛び出す! つみたてNISA座談会」というコーナーでは、米国株投資歴20年の「たばぞう」さんから、TOPIXの指数が上がらないことに、「銘柄が多すぎて、これ以上成長が見込めないゾンビ企業が含んでる」などと、“直球発言”が飛び出してしまっているくらいなのだ。
「金融庁は、投信の本数が多すぎることを問題視、20年にはそのことを指摘する報告書を公表し、今年4月にも『資産運用業高度化プログレスレポート』というもので、投資信託について情報が多すぎてかえって顧客を混乱させる、との指摘を行っています」(経済ジャーナリスト)
さらに「資産所得倍増計画」を掲げる岸田政権では、6月に経済財政運営と改革の基本方針を示す「骨太の方針」で、顧客本位や運用能力向上での「抜本改革」について、政策プランを策定するとされた。
もちろんそこには、24年にスタートする新NISAがあるからで、そこで運用側の野村アセットでは、投信の本数を「30年までに半減」の方針を掲げたと、5月に報道があった。そして現在、大和証券やSBI証券系でも大幅削減に動き始めたと報じられている。政府、金融庁、運用側で、新NISA向けの環境整備を進めているというわけだ。だが必ずしも順調に進んでいるとは言えないようで…。
「ですがその新NISAを巡っては、6月に投資信託協会が新NISAでの『成長投資枠』対象の投信第1弾として約1000本を公表しましたが、選定基準を巡って金融庁側と対立。また資産所得倍増計画では、広く国民に金融投資をしてもらう上で、必要な金融知識を学んでもらうための教育と、中立な立場で投資の助言を行うアドバイザーを認定するために、『金融経済教育推進機構』なる機関を設置するとしていますが、来年以降の話で、具体的な中身があまりよく見えてきていません。もともと岸田政権の資産所得倍増計画が、最初の分配の見直しを行うとした資産倍増計画が頓挫してから出てきたものだけに、見切り発車感は否めません」(同)
さすがに旗振り役の金融庁でも、そこまでの本音を語ることはないはずなので、我々1人1人が厳しい目で事の成り行きを見届ける必要がありそうだ。
(猫間滋)