日経新聞とテレビ東京が行った5月26〜28日に行った世論調査では、岸田首相の支持率は4月の調査から5ポイントも低下。ゼレンスキー招聘に成功した広島サミットを受けて支持率が上昇しているはずが、折悪く25日に長男・翔太郎氏の「組閣ごっこ」写真で文春砲を被弾して、パパ岸田が必死こいて稼いだ支持率を放蕩息子が使い尽くしてしまう格好となった。
そこで、得意とされる外交でまたひと稼ぎというわけではなかろうが、27日に岸田首相は北朝鮮拉致問題の「国民大集会」に出席。「日朝間の懸案を解決し両者が共に新しい時代を切り開いていくという観点からの私の決意を、あらゆる機会を逃さず金正恩委員長に伝え続けるとともに、首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」とし、金正恩朝鮮労働党総書記との会談実現へ意欲を示した。
すると29日、北朝鮮側は「日本と会えない理由はない」と表明したことが朝鮮中央通信に報じられ、日本国内では「19年ぶりの日朝会談実現か」といった空気も出てきたのだが…。
「報道は北朝鮮のパク・サンギル外務副首相の談話を伝えたものです。ただ会談実現には、日本が前提条件をつけないとあります。これはつまり、日本が拉致問題における北朝鮮の立場を完全に受け入れるならば、ということを意味し、簡単に言えば、拉致問題に関しては『解決済み』という北朝鮮の姿勢は曲げないということです」(外信部記者)
拉致問題では、02年9月に当時の小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問後、帰国できたのは5人。日本政府が認定している拉致被害者は17人なので、未だ12人が北朝鮮に残されている。だが北朝鮮は、12人中8人は既に死亡していて、残りの4人はそもそも北朝鮮に入っていないとしているので、互いの主張は極めて譲りがたい状況だ。
そもそも北朝鮮から出てきた談話の発言主を見ても、両国の間にはだいぶ距離があることが分かるという。
「こういった発表では滅多に金正恩本人の言葉が伝わることはなく、しかし首脳会談に関わることですから、本来なら金与正・労働党副部長か外交分野トップの崔善姫外相が総書記の考えを代弁するものです。ところが談話を出したのは、外務副首相です。このことから、いかにこの件でも北朝鮮が上から突き放しているかが分かります」(同)
だがそれでも一応前向きな発言を行ったのは、韓国が尹錫悦政権に変わったことで、急速に日米韓の協調姿勢が固まる中、拉致問題というカードで日本に協調への楔が打ち込めるからという、北朝鮮側の計算もあるからだという。
岸田首相の計算の中に、日韓関係の雪解け、サミットでの成功、そして今度は北朝鮮との関係改善があることは北朝鮮も先刻承知で、寄ってきた魚にエサを撒いたとでもいったところか。案の定、31日には“軍事偵察衛星”と称するミサイル発射で、歩み寄りムードをぶち壊す暴挙に出た。ここは是非とも「外交の岸田」らしく、圧力と対話の駆け引きでこの厄介な国との交渉で成果を出してほしいものである。
(猫間滋)