びんずる尊者像で脚光「善光寺」参りを100倍楽しむ(1)仏のテーマパークだった

 前代未聞の仏像盗難事件で一躍脚光を集めた信州・善光寺。日本最古の仏像の御利益にあずかろうと年間600万人以上の参拝客が訪れる屈指のパワースポットだ。「牛に引かれて善光寺参り」とはよく言ったもの。宗教思想家や現役住職、街歩きのスペシャリストが参拝を100倍楽しむノウハウを伝授する。

 盗難騒ぎにあった「びんずる尊者像」について、日蓮宗真成寺住職でYouTubeチャンネル「かんちゃん住職」を運営する谷川寛敬氏に解説いただこう。

「歴史的な話をすると、賓頭盧(びんずる)尊者はお釈迦様のもとで悟りを開いた16人の弟子(十六羅漢)の中でも筆頭に挙げられる存在。いわゆる『撫で仏』というもので、撫でることでその部分の病気が治ると言われています。この風習は日本で広まったもので、実際に撫でて治るということは医学的にありえないかもしれませんが、すがる思いで参拝する人たちに安心や希望をもたらしてきました」

 4月5日に30代の男によって盗み出された木像は、翌6日に寺へと返還されたが、今回の事件をきっかけに、善光寺に興味を持った御仁も多いのでは?

 善光寺に参拝するならJR長野駅へ。外国人観光客でも道に迷うことはない。駅から中央通りを北に約1.8キロ進めば善光寺があるからだ。信仰の地を中心に、都市計画が進められた街は珍しいようで、全国の地域史を探究するルポライターの昼間たかし氏はこう語る。

「明治時代に廃藩置県が行われた際、当地には中野県が設置され、現在の中野市に県庁が置かれました。これが明治4年に焼き討ちにあって、現在の長野市に移転するのですが、これに政府が許可を出した理由が、善光寺周辺が宿場町として栄えていた点。交通の便もよかったためです」

 善光寺がなければ現在の長野県は存在しなかったかもしれない。古くから参拝客で賑わう理由について、昼間氏が続ける。

「善光寺は無宗派で、人を選ばずに極楽往生させてくれる寺として知られています。その歴史の長さゆえに、虚実ないまぜの伝承や文物があふれる、いわば仏のテーマパークとも言えます」

 善光寺、来る者を拒まず。アウトロー作家の影野臣直氏もこう話す。

「現役OB問わず、何かと悪さをしてきたヤクザというのは、仏にすがりたくなるもの。実際、名のあるヤクザの親分が僧侶になるケースもあります。不良連中から『善光寺参りに行ってきた』と報告を受けますが、ヤクザが入場を断られたなんて話は聞いたことがありません」

 今から約1400年前に建立されたと言われる善光寺。最大のミステリーが本尊「一光三尊阿弥陀如来」だ。名だたる戦国大名が権威の象徴として手中に収めようと〝争奪戦〟を繰り広げたほどだ。

「この地を支配した武田信玄、その武田一族を滅ぼした織田信長へと渡り、その後、豊臣秀吉が京都の方広寺の御本尊に迎えると、直後から病気がちになり、善光寺如来の祟りではないかと噂されました」(昼間氏)

 仏様を独り占めしようとした天罰か。

(つづく)

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