「高校バレー部員自死事件」暴言顧問は懲戒免職「遅すぎる処分」に疑問噴出

 先月3月30日、岩手県の教育委員会は、校長経験者2人に対し戒告処分をしたことを発表し、「高校バレー部員自死事件」の幕引きとした。
 
 昨年6月24日、岩手県教委は県立不来方(こずかた)高校のバレー部顧問だったS氏を「懲戒免職処分」にしたとし、同時に当時の副校長5人も管理監督責任として戒告の懲戒を発表していた。この処分を巡り、「なぜ今まで処分をしなかったのか」「どう考えてもおかしい」という声が高校の教員たちから上がっていたのである。
 
 事件が起きたのは5年前の2018年7月3日の早朝のこと。不来方高校のバレー部の主砲だった高校3年生の新谷翼さんが自宅で自死していたのが発見された。中学時代に日本選抜選手にも選ばれ、U-18日本代表候補にもなり、この年の春高バレーにも出場していたので自死したことは瞬く間に広まった。

「実は自死の理由が顧問からのパワハラではないかというのは他高の先生たちから早い段階から囁かれていたんです。Sさんはとにかく熱いといえばいい言い方ですが、自分をコントロールできずに部員たちを罵倒し続ける。聞くに堪えないような暴言を吐くというのは有名でした」(岩手県内の高校教師)

 新谷さんの死後に自室の机の中から奥に隠されるように遺書が発見された。そこには顧問から「辞めろ」「もうバレーはするな」などと言われ続けていたことが書かれていた。それを持って両親は学校を追及するが、学校側は「自死の原因と断定はできない」とのらりくらりと態度を明確にしなかった。

 県は第三者委員会を立ち上げて原因を追究したが、自死から2年後の2020年7月に「激しい叱責が自死の一因になっていた」との報告書を受けていた。ところが、である。県の教育委員会はあろうことか、その報告書が出てからも「自死の一因と判断するのは困難」としていたのである。

 だが、このS顧問の問題行動を、県教委は早くから把握していたのではないか、と前出の高校教師は言う。
 
「実はSさんは過去にも他校で重大なパワハラ事件を起こしていました。不来方高校の前任校の盛岡一高でバレー部の監督をしていた2015年当時、Sさんがある部員に対して罵詈雑言を浴びせ、その生徒が精神に支障を来してしまったというのです。この時は、刑事告発もされましたが不起訴で、民事でも県が被告となって争い、一審はS氏の不備が認められたのですが、上告して高裁で2019年2月に判決があり、県が敗訴して40万円の損害賠償が確定しています。

 盛岡一高の裁判中にSさんは不来方高校に異動になっていましたが、係争中だったので、不来方バレー部の保護者たちはこの件を知らなかったんです。県は訴えられていたので教育委員会は把握していたのでしょうが、控訴しているということで明らかにしなかった。もし、知っていたらこんな顧問に子供を預けたいと思う保護者はいなかったでしょう。その意味では教育委員会にも責任があると思います。Sさんが事件後、不来方高校から花巻市にある県の総合教育センターに異動したと聞いて、てっきり花巻に研修を受けに行ったんだなとばかり思っていました」

 県の総合教育センターは県内の教職員らの研修や、問題のある教師を指導する施設だ。ところが、S氏はなんと、総合教育センターの「研修・指導主事」となっていたことが、今回の処分で明らかになったのだ。

「なんでSさんが研修・指導主事なのかって腰を抜かすほど驚きました。てっきり指導を受けている立場だと思っていたのに、正反対の指導する立場になっているって悪い冗談だとしか思えない」(前出・高校教師)

 この件に対し、県教育委員会の担当は、

「確かにそう思うかもしれませんが、これはあくまで職名であって、(S顧問が)他の先生たちを指導しているということではなくてセンターの事務職で勤務していたということです」

 と釈明するが、誤解されるのは当然ともいえる肩書であろう。また前出の高校教師は、戒告の懲戒を受けたのが副校長5人であって、当時のトップだった校長の処分がないこともおかしいと指摘する。

「定年退職していますが、退職すれば罪に問われないのか。校長はS顧問の指導が自死の原因ではないと主張していたんです。これではご遺族の方も納得できないでしょう」

 この件に対しても県教育委員会は以下のように説明する。

「地方公務員法によって退職された方に行政処分を科すことはできませんので対象から外れました」

 処分発表の日に遺族代理人は記者会見に応じた。いまだにS氏からの謝罪もないことについて問われた代理人は、

「謝罪なんか求めていませんから」

 そう冷たく言い放った。今回処分された2人は県教育委員会の人事担当で、係争中だったS氏を異動させたことでの戒告処分だった。もし、前歴が明らかになっていたら自死事件は起きなかった可能性がある。その意味でも罪は軽くないのだ。

(深山渓)

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