3年に及ぶコロナ禍で、不特定多数との性的接触が少なくなったことにより、性感染症も減少傾向にあるのではと思われがちだが、想像とは裏腹に世界では今、性感染症患者の数が増加。特に梅毒の罹患者が急増しているという。
国立感染症研究所の発表によると、2022年第1〜42週(2022年1月3日〜10月26日)の症例報告数は、調査が始まって以来最多の10,141例を記録。うち男性は6,704例、女性は3,436例と、男女ともに前年同期比で約1.7倍と高い水準で増えている。
「梅毒については、ペニシリン系抗生物質の飲み薬治療により2000年代初頭にはすでに“克服された病気”というのが医学界の常識でした。ところがその後、男性間での感染が広がり、世界的に伝播。また最近は性交渉の多様化で、SNSなどで知り合った不特定多数と多数回関係するケースが増えたことで、感染が拡大していったのではないか分析されています」(医療ジャーナリスト)
性行為など粘膜や皮膚の接触で感染する梅毒は、感染後3週間ほどで、陰部や唇、口の中など感染した部位にしこりができ、リンパ節が腫れ、その後、手のひらや体に赤い発疹が現れる。だが、それが脳神経の中に入れば脳に大きなダメージを与える。さらに大動脈に入れば、心臓にも大きな病気を引き起こすという恐ろしいものだ。特に妊婦が母子感染を起こすと、子どもに重篤な影響を与える懸念がある。
また近年は、女性が妊娠前や妊娠中に梅毒に感染、胎盤を通じて胎児が「先天性梅毒」にかかり、生まれた赤ちゃんが死亡するケースが増えているという。
「今月、カナダ公衆衛生庁(PHAC)が、国内の先天性梅毒の推移を発表したのですが、2017年には7例しかなかった事例が、2021年はなんと96件、つまり13倍に増えていることが確認されました。保健当局は、最近10年間で感染者数は増加傾向にあり、人口10万人当たり5.1人だった2011年に比べ2020年の感染者は24.7人と、5倍近く増えたと伝えています」(同)
約2300人のカナダ人を対象に調査したマックマスター大学によれば、性関係が活発なカナダ人のうち7割が避妊用ゴムを使用していなかったとして、最大の要因はやはり避妊用具なしでの性行為にある、と指摘している。
「女性が梅毒に罹患した状態で妊娠した場合、生まれる前に死亡、あるいは死産というケースがあるほか、生まれてきた後も新生児の脳や骨、関節などを含む多くの臓器に影響を及ぼし、神経学的な問題や臓器損傷、視力を失う場合もあります。感染しないためには、不特定多数と性交渉しない、あるいは必ず避妊具を装着するなど、まずはリスクを取り除くこと。初めての相手と交わるようなパパ活などは、のちのち痛い目にあうリスクがあるということです」(同)
災いは忘れたことにやってくるのである。
(灯倫太郎)