「安倍元首相銃撃」山上容疑者と映画「タクシー・ドライバー」を重ねる声

 参院選の応援演説中に安倍晋三元総理が凶弾に倒れるという衝撃的事件に、国内はもとより海外からも追悼メッセージが届くなか、一部ネット上には「デニーロのタクシードライバーがリアルに」「もうあの映画をテレビでオンエアされることはないだろう」などの書き込みがみられる。

“デニーロのタクシードライバー”とはご存じの通り、ロバート・デニーロの出世作であり、マーティン・スコセッシ監督とロバート・デニーロの代表作とも言える映画「タクシー・ドライバー」。1976年に公開され、同年の第29回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞。翌年の第49回アカデミー賞では作品賞と主演男優賞、助演女優賞、作曲賞にノミネート。今でも評価の高い作品の一つだが、そのシチュエーションが今回の悲劇と重なる部分があるからだ。

「タクシー・ドライバー」のストーリーをざっと紹介すると、不眠症に悩む「ベトナム戦争帰りの元海兵隊員」トラヴィスは、帰国後にタクシー運転手に。ある日、次期大統領候補チャールズ・パランタイン上院議員の選挙事務所で見掛けた女性に一目惚れし、ボランティアの選挙運動員として参加したい旨を申し出る。その後女性とデートに行くも、彼女を憤慨させ、デートは即刻終了。トラヴィスは謝罪するものの聞き入れてもらえなかったことから逆上し、選挙事務所に押し入り、彼女に罵詈雑言を浴びせるが事務所から追い出されてしまう。

 その後、銃の密売人から銃やナイフなどの武器を入手し、射撃訓練や肉体改造を始めるトラヴィス。そして、銃やナイフを仕込んでパランタイン大統領候補の演説集会に向かう。しかしシークレットサービスにみつかり逃亡、別の場所で銃撃戦を繰り広げる。

 デニーロ演じるトラヴィスがモヒカン頭になって武器を持ち、演説集会に向かうというシーンが今回の事件を彷彿とさせるうえ、元海兵隊員というところも類似している。

「映画の中であれば、トラヴィスの脆さ、危うさ、そして精神が壊れていく様を、ベトナム戦争帰りという時代背景とともに、70年代のアメリカの若者の話として捉えられます。ちなみに、この映画に登場する女優ジョディ・フォスターのストーカーとなった男が、大統領を殺せば振り向いてもらえると妄想し、米レーガン大統領を狙うという暗殺未遂事件も発生しています」(映画ライター)

 当時のマーティン・スコセッシはなぜ「タクシー・ドライバー」という設定にしたのか。一説によると”ありふれたものだから”で、誰にも気づかれない存在で、どこにでもいるからだという。

 70年代の名作映画が悲劇を連想させることは嫌な話だが、マーティン・スコセッシは「ほら、トラヴィスはそこにいるよ」とも当時語っている。つまり世界中のいたるところ、日常の中にも同じような悲劇が起こるきっかけは潜んでいる、と50年前の映画は伝えていたのだ。

(ロドリゴいしざわ)

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