中国が「一人っ子政策」の廃止を決定したのは2015年末。ところが、出生数は減少の一途をたどり、2021年の出生数は前年より138万人減って、1062万人まで落ち込んでいる。これは建国以来72年間で、最低の数字だ。北京大学の張俊ジ(「女」偏に「尼」)副教授は「100年後の中国の人口は4億人」と予測し、内外に衝撃を与えた。
人口は国力を図るバロメーターである。衰退する国家は「侵略の野心の火を燃やす」ことを歴史が示している。
その典型が第二次世界大戦とソ連邦の崩壊で人口を減少させたロシアである。第二次大戦でソ連邦は勝利したが、人口の1割に当たる約2660万人が死亡。ソ連邦の崩壊後、ロシアの人口は約1億4000万人と伝えられていたが、体制崩壊の混乱で国外へ移住を求める人が増え、また出生数が落ち込んだことにより人口が減少し続けた。
人口が減少すると製造業は育たない。「沈むロシア」に危機を抱いたプーチン大統領は2014年にウクライナのクリミア半島を併合して、一時的に人口を200万人増やした。しかし人口減少の流れは止められず、ロシアは製造国として大きな後れを取った。
大国の復活を夢見るプーチンはさらなる野望を抱いてウクライナに攻め入ったが、戦況はロシアの狙いからほど遠く、膠着状態にある。これは「人材と資本」のさらなる流失を意味している。
問題は、世界でも極めて稀有な人口抑制の歴史を持つ中国だ。1949年、中華人民共和国を建国した毛沢東は「人口は国力」との考えから出産を奨励した。結果、5億人だった人口がわずか30年で9億9000万人に倍増した。これでは国民が食えないと、1979年に「一人っ子政策」に大転換したという経緯がある。
「一人っ子政策」を廃止した翌2016年からは、夫婦一組に2人までの出産を認めた。当時はこれ自体が革命的であったが、それでも出生数の減少は止まらなかった。そのため2021年には3人目を認めると発表すると同時に、これまで産児制限違反に対して科していた実質罰金刑である「社会扶養費」を撤廃した。
その一方で、結婚の障害になっていた教育問題に大胆に取り組みはじめた。新婚夫婦の最大の悩みが「教育費」だったからだ。幼児園から小中高、大学までの教育費はビックリするほどかかる。大学に進むためには普通の小中高だけでなく、学習塾や家庭教師をつけるのが普通だ。このため、教育費が最低でも年間100万円はかかり、大学受験時にもなれば300万円を超える。
つまり、夫婦が共働きしても子供を1人育てるのがやっと。中国政府はここにメスを入れ、昨年、営利目的の学習塾を全面的に禁止した。
これに加えて住宅問題がある。結婚にあたって家を持っているかどうかが重要視されるため、親のスネをかじれるボンボンはともかく、庶民の子弟は無理をしてローンを組んで購入する。それで結婚にこぎつけたところで、子供が生まれたら教育費に悩まされるのだから、2人目をつくる余裕などないのが実情なのだ。
その結果、中国の総人口は21年末で14億1260万人。出生数が減少する一方で65歳以上の人口割合は増加の一途。つまり、経済の基である生産年齢人口(15〜64歳)は減り続けている。しかも中国では60歳定年が厳格に維持されている。
中国の人口は今がピークとも言われ、この流れの果てが「4億人」だとすると、世界の景色はまったく異なったものになる。
(団勇人・ジャーナリスト)