いまだ激しい戦闘が続くウクライナ東部。一方、ロシアに制圧された南東部マリウポリでは、コレラや赤痢などの感染症の症状を訴える住民が現れたことで、マリウポリのボイチェンコ市長はイギリスメディアの取材に「この状態が続けば、今後1万人が死亡するおそれがある」との懸念を示した。
同市長によれば、マリウポリはロシア軍の空爆によりインフラの大半が破壊され、電気・ガスのほか、命綱である飲料水の供給も不足している状態だという。
「さらに、そのわずかな飲料水や生活用水にも下水が混入していて、衛生環境が極度に悪化しているといいます。実は、ウクライナでは、1995年にもコレラの大規模感染が発生していて、その後も小規模ですが、集団感染が何度も起きています。空爆によりマリウポリの医療サービスは、その大半が破綻していると言われますから、もしそんな状態でコレラや赤痢に襲われたら、被害は1万人では到底済まないでしょう」(ウクライナ情勢に詳しいジャーナリスト)
加えて、細菌の呼び水になっているとされるのが、遺体の埋葬状況だという。
前出のジャーナリストによれば、マリウポリでは破壊された建物のがれきの下に、無数の遺体がそのまま残されているというのだ。
「マリウポリは3カ月近い間、ロシアの攻撃にさらされ、最終的にロシアに制圧されたため、破壊し尽くされた市内は一部を除き今もそのままの状態。路上や建物の中に多くの遺体が放置され、それが腐敗している。ゴミも回収されないままなので、ゴキブリやハエなどが大量に発生。それらがコレラや赤痢菌の源となり、雨で流された細菌が飲料水や生活用水を汚染しているのです」(同)
コレラに罹患すると下痢や嘔吐などの症状が現れるが、重症になると大量の下痢によって体内に循環する血液量が減り、ショック状態に陥って死に至ることもある。
コレラには、下痢で失った水分や電解質を補う脱水に対する治療が重要となるものの、病院や医療サービスが破壊されているマリウポリでは、薬品もままならないのが現状だ。
「ウクライナ保健省はSNSで『井戸水の煮沸』などを呼び掛けていますが、いったん感染が広がったら、そんなことで食い止められるかどうか。マリウポリ市長は、英BBCのインタビューに対し『(ロシア軍は)この街の感染症病院を破壊し、医療器具を破壊し、医師たちを殺した』と悲痛の叫びをあげています。ロシアの空爆を逃れた市民が、今度は感染症で命を落とす可能性があるということ。本当に胸が痛みますね」(同)
暴君プーチンが起こした大量殺戮に、改めて怒りがこみあげてくる。
(灯倫太郎)