北朝鮮による「ミサイル発射」は今年だけで17回に及び、過去最多のハイペースで撃ち続けている。武力の示威行動は日米韓に向けた挑発だけではなく、金王朝の悲願でもある「朝鮮統一」に向けた〝狼煙〟なのか。大国すらも尻込みさせる半島有事「核弾頭暴発」シナリオの全貌とは─。
「保有する核武力を最大限、急速に強化するための措置を取り続ける!」
4月25日に行われた「朝鮮人民革命軍」創建90年の軍事パレードの式典で、結束を高めるために、こう力強く宣言した、北朝鮮の金正恩総書記(38)。
まさに有言実行とばかりに、5月だけで7発のミサイル発射を防衛省が確認。続く6月5日には、わずか35分間に平壌郊外の順安など4カ所から8発の弾道ミサイルが大量発射された。軍事評論家の潮匡人氏が北朝鮮の狙いについて説明する。
「複数の場所から同時に多数発射することで、攻撃を受ける側は迎撃が困難となる『飽和攻撃』の能力があることを周辺国に誇示しました。高度や飛距離を踏まえて推測すると、発射された短距離弾道ミサイルは、『北朝鮮版イスカンデル』と呼ばれる『KN23』や米国製の地対地ミサイル『ATACMS』に類似した『KN24』の可能性があります。放物線ではなく変則軌道が特徴で、全てを迎撃するのはほぼ不可能です」
中でも看過できないのが、5月25日に日本海に向けて発射された3発の弾道ミサイルだ。折しも、アメリカのジョー・バイデン大統領(79)が日本と韓国を歴訪し、帰国の途に就いた直後のタイミングを見計らい、発射に踏み切ったのである。
「大陸間弾道ミサイル(ICBM)と見られる長距離弾のほか、準中距離弾と短距離弾を連射し、準中距離弾は失敗こそしましたが、日米韓を同時攻撃できる能力を検証したと推測できます」(潮氏)
日米韓のミサイル防衛網の安全性が脅かされるほど、北朝鮮がケンカ腰になる「予兆」は数年前から起きていた。外信部記者がこう振り返る。
「18年4月の南北首脳会談で合意した『板門店宣言』で、軍事境界線一帯でのビラ散布を含む全ての敵対的行為禁止の取り決めを交わしています。それを無視して韓国の脱北者団体が体制批判の『風船ビラ』を飛ばし、正恩氏の妹の金与正党副部長(33)が激怒。20年6月に開城の南北共同連絡事務所を爆破し、さらなる報復を予告しました」
与正党副部長の憤怒はさらに、日本でもヒットしたドラマ「愛の不時着」をはじめ、韓国のドラマや映画の流行にも矛先が向けられていく。
「韓国人のエンタメやファッションなどに触れることは、体制に対する忠誠心を揺るがす危険なものと認識されています。20年12月に韓国の映像物を流布したら最高で死刑、視聴すれば最高で懲役15年の法律を制定しました」(外信部記者)
韓国へのイラ立ちが増幅していく矢先、導火線に火をつけたのは、5月10日に5年ぶりの保守政権となった尹錫悦(ユンソンニョル)新大統領(61)の就任だった。これまでの文在寅(ムンジェイン)政権の対北融和路線から一転、強硬路線を表明。
「北をなだめる時代は終わった」
と突き放し、韓米同盟重視の姿勢を打ち出した。だが、それも好都合とばかりに、戦慄のシナリオが現実味を帯びてきているのだ。
*金正恩 戦慄の「核暴走」シナリオ【2】につづく