ウクライナの劣勢を誘発か?米国「長射程ロケット」供与拒否の真相とは

 ウクライナ東部地域で攻勢を強めているロシア軍。東部ルハンシク州のガイダイ知事は1日、「ロシアがセベロドネツクのおよそ7割を統制下に置いている」とテレグラムに投稿。ロシアが掌握していない地域では今もなお、連日激しい砲撃が続いていると伝えた。

 先ごろまでは、ロシア軍戦車を大量に破壊するなど、優勢が伝えられていたウクライナ軍だが、ここへきて戦況が急変。その原因の一つが、ロシア軍の作戦変更にあると言われている。

「ロシア軍は当初、東部ドンバス地方を広範囲に攻撃していましたが、5月に入り、ロシア支配地域に隣接するエリアをピンポイントで徹底攻撃する作戦に切り替えた。これにより狭いエリアに戦力が集中して、状況が一転してしまったようです」(軍事ジャーナリスト)

 さらにもう一つ、劣勢誘発の最大要因とされるのが、米バイデン大統領がウクライナへの「長距離ロケットシステム」提供にしり込みしたこと。そう指摘するのが前出のジャーナリストだ。

「バイデン政権としては、ウクライナへ米軍地上部隊を派遣しない代わりに、対戦車砲や対空砲などの武器供与を拡充してきました。ところが、主戦場が平場の多いウクライナ東部に移ったことで、遠方から攻撃できるミサイルや戦術無人機といった兵器がより求められるようになった。そこでウクライナ側が提供を求めてきたのが射程の長い『多連装ロケットシステム(MLRS)』だったのですが、これは弾の発射口が複数あって連射できるだけでなく、弾の種類によっては300キロ先の標的を狙えるという兵器。ウクライナ政府は、米国に対し『これが欲しい』と求めていたというわけです」(同)
 
 これまで米国が供与してきた「りゅう弾砲」は、1発ずつ発射するもので、射程は25キロ程度。これに比べ、「多連装ロケット砲」ははるか遠くの標的を的確に攻撃できるというわけだが、

「そうなると、セベロドネツク付近から発射しても、ロシア領内に軽く届いてしまいます。つまり、ウクライナ軍がこの兵器でロシア領内の軍事拠点を攻撃した場合、米国の兵器がロシア領内で使われた、『米国がロシアを攻撃した』と、こじつけられることは間違いない。米国としても、それは避けたいですからね。そのため、バイデン氏も『ロシアに届くようなものは供与できない』と明言していたんです」(同)

 しかし、そのタイムラグが優勢だったウクライナ軍を一気に戦況悪化に追い込んでしまったのかもしれない。結局、米政府高官は31日、HIMARS(高機動ロケット砲システム)の供与を発表。当局者の談話を伝えたCNNによれば、今回のHIMARSには約80キロ飛翔するロケットを装備。射程300キロには及ばないものの、これまでウクライナに搬送された兵器の中では最長射程を誇るという。

 このほかにも、米国は監視レーダーや対戦車ミサイル「ジャベリン」、さらに砲弾やヘリコプター、戦闘用車両なども追加支援するというが、今回の武器支援により米ロの緊張関係はいや増すばかりだ。

(灯倫太郎)

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