政府が制限付きながら屋外でのマスク不要を打ち出し、コロナウイルスの収束が叫ばれる一方で、大増殖しているのが中高年のコロナ鬱患者だ。長期間の引きこもり生活や会話の減少により、知らず知らずのうちにむしばまれるという。ベストセラー「80歳の壁」著者でもある専門医が危険な兆候に警鐘を鳴らす!
新型コロナウイルスの感染が広がって以降、社会不安や景気低迷などによる「コロナ鬱」、すなわちメンタルヘルスの悪化が懸念されてきた。OECD(経済協力開発機構)の国際調査によると、日本国内の鬱病の有病率は、2020年時点で17.3%。2013年の7.9%から飛躍的に激増しているという。
先月亡くなった俳優の渡辺裕之さん(享年66)も、新型コロナの感染拡大の影響などから「心の病」になり、治療を受けていたというから、職業を問わず、中高年にとって「コロナ鬱」は、他人事ではなくなっている。こうした現状に警鐘を鳴らすのは、ベストセラー「80歳の壁」(幻冬舎)の著者でもある精神科医の和田秀樹氏だ。和田氏が言う。
「コロナによって、ブルーな気分が鬱状態にまでつながってしまった人は少なくないと思います。ただ、精神科医の立場としてやっかいなのは、新型コロナウイルスへの感染を恐れて、病院に来る人が激減したことです。実際、コロナ禍が始まってから、精神科の待合室は閑古鳥状態です。これは精神科に限ったことではなく、どの科の病院も患者さんの数は大幅に減少しています。『病院に行くと、コロナに感染するのではないか』『電車に乗ると、コロナに感染するのではないか』と心配して、受診を減らしてしまったのです。その結果、早期発見・早期治療という重要なことができなくなってしまいました」
中高年がコロナ鬱に襲われるのは、どういった理由からなのか。和田氏は、コロナの感染拡大そのものに対する不安に加えて、外出自粛による「ステイ・ホーム」がきっかけになったのでは、と話す。
「鬱病は、幸せ感や精神の安定感を生むセロトニンという神経伝達物質と関係していると考えられています。セロトニンの量は加齢によって少なくなりますが、日光を浴びる時間が短くなると減少してしまう特徴もある。外に出る機会が減って日光を浴びなくなるとセロトニン量が減少し、幸せ感や気持ちの安定感が減退してブルーな気分になりやすいのです。
また、日光に当たる時間が短くなると、メラトニンという睡眠物質が不足することもわかっています。メラトニンの減少は不眠につながり、規則正しい生活を送れなくなる原因になります」
これまで経験したことのなかった長期にわたる自粛生活。いくら政府が規制を緩和したとしても、コロナ以前の不安なき生活に戻るには、それ相応の準備が必要だろう。元の生活に無理なく戻るために、今できることは何なのか。
「コロナの自粛期間中には、多くの人が無理を重ねたはずです。緊急事態宣言も解除されたわけですから、無理な生活をやめて当たり前の生活を取り戻すことが大切です。
朝起きて太陽の光を浴びる。テレワークの人は、少し外に出て新鮮な空気を吸い、それから自宅に戻って仕事を始める。時差出勤の人は、毎日時間帯を変えるのではなく、一定の時間に出勤するようにして生活リズムを作る。そういう『日々の当たり前の生活』に戻していくことが、心の健康を保つベースです。ステイ・ホーム中は、生活リズムが乱れて夜に眠れず、昼間はゴロゴロしていた人もいるかもしれませんが、そんな生活はブルーな気分を強めてしまいます。
まずは日常の生活を取り戻すこと。朝起きて、昼に活動して、夜に寝る。そのリズムを取り戻すだけで、ブルーな気分、鬱的な状態からある程度は回復できます」
当たり前の日常生活を取り戻すことこそ、最良のコロナ鬱予防になると言えそうだ。
*「中高年のコロナ鬱」完全予防マニュアル【2】につづく