ベラルーシで行われたロシア・ウクライナの停戦交渉は、互いに都市から市民を脱出させる「人道回廊」を設けることで一致はしたものの、停戦そのものは話がまとまらず、むしろ戦闘は大規模化しつつある。プーチン大統領の誤算はさまざま指摘されていて、その中に西側諸国の一致がある。国連のロシアを非難する総会決議で反対に回ったのはロシア、ベラルーシ、シリア、エリトリアそして北朝鮮のわずか5カ国で、本心では様子見といった国もあるだろうが、それでも形としては完全に世界中を敵に回してしまった格好だ。
その理由の1つとして、コロナ感染を嫌ってメディアへの登場が少ないプーチンに対し、SNSを駆使して惨状と支援を訴えるウクライナのゼレンスキー大統領のメディア戦略の違いがあるだろう。直接的な訴えかけは人の胸に刺さるものがある。そこで、この“情報戦”を陰で支える、ある人物への注目も高まっている。弱冠31歳にして副首相とデジタル変革大臣を兼任するミハイロ・フョードロフ氏だ。
「テスラのイーロン・マスクCEOは衛星を使ったインターネットのアクセスサービスを提供する形でウクライナ支持を表明していますが、実はこの支援を引き出したのがフョードロフ氏なんです。彼がSNSと通じて『あなたが火星を植民地化しようとしている間に、ロシアはウクライナを占領しようとしている』とちょっと挑発的な内容の公開書簡をマスクに送り、マスクが返答を返したことで対話するようになりました。1日にはマスクが送った通信の機材が現地に到着したと、フョードロフが感謝かたがたその機材の写真をSNS上にアップすると、マスクが『どういたしまして』と返しています」(週刊誌記者)
ロシアがウクライナに侵攻した2月24日は奇しくもスティーブ・ジョブズの誕生日だったが、アップルのティム・クックCEOは翌25日にウクライナ情勢への懸念をツイッターで表明。そして1日にアップルはロシアでのアップルストアとアップルペイの遮断を含めて、製品販売の中止を打ち出したが、これを引き出したのもやはりフョードロフがティム・クックへ宛てた公開書簡だった。さらにアップルはサイト上にバナーを張って、ユニセフを通じたウクライナへの寄付も募っている。
「フョードロフは2月27日にツイッター上で『IT軍隊を創設する』とアップ。すると世界中からハッカーの賛同者が“参戦”して、ロシアは外務省や証券取引所、国有銀行のサイトが一時停止に追い込まれました。ほぼ誰も知らなかった彼の名前は今回の一連の活躍で知れ渡り、1年前は100人もいなかったツイッターのフォロワーが19万人以上に跳ね上がっています。IT軍隊には、日本でも5ちゃんねるで参加を呼び掛ける声が上がっています」(同)
こういった話を聞くと、ウクライナのSNSを使った情報戦の機動力の高さと訴求力の理由が分かり「なるほど」となって、やはり若手のリーダーが特に今後は必要なのだと思い知らされたようだ。
(猫間滋)