世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「キャンプ不参加の2冠王に嫉妬!」

 プロ野球はキャンプ中もコロナの陽性者が相次いでいる。中日は立浪監督が感染して、1軍コーチ陣が全員濃厚接触者となる異常事態となった。僕も仕事で阪神の沖縄・宜野座キャンプを訪れた際には、沖縄入りの前だけでなく、現地でもPCR検査を受けて、細心の注意を払った。

 一向に収束しないオミクロン株の感染状況を見ると誰がいつどこでかかってもおかしくない。選手は陽性判定を受けたら10日間程度の隔離が必要で、濃厚接触者も数日間は隔離されるらしい。キャンプを管理する球団関係者はピリピリしていた。

 とはいえ、選手はコロナで離脱しても、シーズンへの影響はそれほどないと思う。中堅、ベテランならなおのこと。故障でリタイアしたわけやないし、無症状なら部屋で体を動かせるんやから。昔の話になるけど、加藤秀司のようにキャンプ不参加で2冠王になった者もいる。

 松下電器から一緒に阪急に入団した一つ年下の加藤は、落合と並ぶ天才打者と思っている。ヒットを打つだけでなく、ホームランも打てるとなれば、天性のものが必要。その才能に嫉妬すら感じたのが、1979年のシーズンやった。腰を痛めてキャンプで練習しなかったのに、打率3割6分4厘、104打点で2冠を獲得。35本塁打もマニエル(近鉄)と2本差の2位で、三冠王になるかと思うほどの大活躍やった。

 僕は現役時代、故障や病気でキャンプを休んだことはない。その年も毎日ヘトヘトになるまで練習したのに、打率は2割8分8厘。前年の3割2分5厘から大きく数字を下げてしまった。

「俺はキャンプで必死に練習して3割を打てず、お前は練習もせずに‥‥」と、嘆いたのを思い出す。

 加藤の話を出してしまうと「キャンプなんて必要ない」となるけど、あくまで極端な例。加藤の名誉のために言っておくと、普段はきちんと練習していた。故障で満足な練習ができずにタイトルを獲れたのは、すでに高い技術が備わっていたから。バットを振り込んで覚える段階を卒業している選手だからこそだった。発展途上の選手はやっぱり必死でバットを振らなアカンし、それ以上に足腰を鍛えないといけない。

 僕がコロナ禍のキャンプで心配なのは、精神的な部分。外食は禁止されており、ホテルの食事も黙食。休日のゴルフ、麻雀、パチンコ全てダメとなれば、どうやって気分転換するんやろか。一人でテレビを見たり、本を読んだり、ゲームをするしかない。ただでさえ野球漬けの長い1カ月やのに、想像しただけで気分が滅入ってしまう。

 お客さんもルールに縛られているから大変。阪神の宜野座キャンプの第1クールは雨が続き、メイン球場が使えずに、室内で練習することが多かった。普段のキャンプなら、ファンも室内やブルペンを見学できるけど、今年はメイン球場だけに限られていた。雨が降る中、誰もいない水浸しのグラウンドを見つめるだけの姿を見ると、かわいそうやった。事前申請など手続きが大変なこともあって、評論家の姿も少なかった。

 とはいえ、こんな状況でも野球を楽しめるのはありがたいこと。北京五輪が終われば、センバツ高校野球も3月18日から始まるし、プロ野球も3月25日に開幕する。憂うつな気分を晴らしてくれる爽快なプレーに期待したい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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