“脱・安倍”の岸田首相が試された佐渡金山「世界遺産推薦」という踏み絵

 マルコ・ポーロの「東方見聞録」では日本は「黄金の国ジパング」とされ、これが本当に日本なのかは諸説あるが、かつては金の埋蔵量が多くて採掘が盛んだったのは事実だ。そして新潟県・佐渡島の佐渡金山は日本を代表する金山の1つだった。そんな佐渡金山を昨年12月に文化庁が世界文化遺産の推薦候補に選んだのだから国内的には大変結構な話なのだが、韓国国内からの反発にあって厄介な政治問題と化している。

「佐渡金山は江戸時代に徳川幕府によって本格的な金の採掘が始められて、幕府の財政の支えとなりました。後に民間に払い下げられるのですが、第2次世界大戦の1940年代前半には多くの朝鮮人労働者が採掘に動員されています。これを韓国側は『強制労働の現場だ』と批判し、今回の世界文化遺産への推薦に抗議しているのです」(社会部記者)

 と、いつもの日韓問題が急に降ってわいたわけだが、最終的には日本政府が2月1日までに推薦を行うかどうかを決定する手はずとなっている。となると岸田首相をはじめ、いたずらに韓国の反日感情を逆なでしたくない政府筋は当然のこと頭を悩まし、するといつものように保守系右派は韓国国内の反日感情にいきり立つ。1月18日に自民党議員の有志で結成された「保守団結の会」が会合を開いたのだが、ここに今では自民党の最重鎮となったあの人も参加して、日本政府の及び腰にハッパをかけていた。

「会合には安倍元首相も参加し、『韓国に対して事実に基づき反論すべきだ』と主張。さらには20日に行われた自らが会長を務める自民党最大派閥の清和会の会合でも、『論戦を避ける形で登録を申請しないのは間違っている』と自説を展開。韓国の顔色を窺う政府の姿勢を批判したのです」(同)

 これを受け、決定権を持つ当事者である岸田首相は「そのために何が最も効果的なのかをしっかりと検討していきたい」と、相変わらずの「聞く力」なのか「聞いても無視する力」なのかが分からない、のらりくらりぶり。腹心でもある林芳正外相も「韓国側に対しては、我が国の立場に基づき、然るべく申し入れをしている」としつつも、「韓国側の立場については承知している」と、突っ込んだ回答は避けた。

「明治日本の産業革命についてはどうしてもこの問題がついて回ることが多い。15年に世界遺産に登録された長崎の軍艦島についても同様の問題が起こりました。これ関しては、15年に中国が南京大虐殺と従軍慰安婦の資料を世界記憶遺産に登録申請した際に、反対する国があれば登録はしないよう日本がユネスコに働きかけてこれを阻止した経緯があって、それが今回は日本に跳ね返ってくるのではないかと言われています」(週刊誌記者)

 菅首相が誕生した総裁選に敗れた岸田首相は、安倍、麻生といった自民党多数派の派閥トップの支持を取り付けることで念願の首相の座に就いた。だからこそ就任直後には、アベノミクスや桜を見る会、赤木ファイルといった安倍・菅政権が遺した負の遺産を、彼らのメンツを傷つけない形でどう解消するかに悩まされた。

 そしてこの世界遺産問題で、また新たな踏み絵が課されることとなった。報道では今年の推薦は見送りの方向で調整しているようだが、リミットは2月1日。果たして岸田首相はどんな論法で体をかわすか。むしろそこだけが注目される。

(猫間滋)

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