昨年は7月にブルーオリジンとヴァージン・ギャラクティックが、それぞれ会社トップのジェフ・ベゾスとリチャード・ブランソンを含む民間人の宇宙旅行を実現させ、9月にはスペースXがこれに続いた。日本でも12月には前澤友作氏がロシアのソユーズ宇宙船で宇宙に旅立ち、JAXAが13年ぶりに宇宙飛行士の募集を開始するなど、2021年は宇宙開発ブームに沸いた年だった。
2010年代後半には「宇宙ビジネス」という言葉が使われ始め、世界で宇宙ベンチャーが乱立して、「第3次宇宙ベンチャーブーム」と言われた。それが今、現実として花が開きつつあるということだが、この流れは当然2022年も続く。いや、むしろどんどん本格化していくことになる。
「22年には新たなロケットの打ち上げが多数予定されています。アメリカではスペースXの宇宙船の『スターシップ』とロケットの『スーパー・ヘビー』、NASAの『SLS』、ULA社の『ヴァルカン』、ブルーオリジンの『ニューグレン』が、欧州組はアリアン・グループの『アリアン6』、日本でもJAXAの次期基幹ロケットの『H3』が打ち上げ予定です。いずれも最新型ロケットのデビューとなるので、各社・各国の威信をかけたものです」(経済ジャーナリスト)
この中、日本のH3に着目すれば、その特徴は打ち上げコストが“安上がり”だということ。前身のH‐IIの打ち上げコストがおよそ140〜190億円で、改良機で現時点での基幹ロケットとして20年以上運用されたH‐IIAでは85〜120億円までコストダウンに成功していた。それをさらにH3では半額にまで抑えるという。
打ち上げコストを削減する理由は、もちろん何度も打ち上げられるようにするためだが、なぜそこまでコストにこだわるかと言えば、いくら安いと言っても結局は「使い捨て」型で、スペースXのような「再利用」型と宇宙開発コスト全体での競争を強いられているという背景があるからだ。これと同じ発想にあるのが欧州組のアリアン6。現行のアリアン5は打ち上げコストが1億7000万ドルほどとされているので、1ドル110円とすれば187億円かかっていたものを、こちらもやはり「6」では半分にするという。
「宇宙船を再利用するスペースXが、有人宇宙船のクルードラゴンなどを打ち上げていたロケットの『ファルコン』で6000万ドル(66億円)という廉価で打ち上げに成功、2020年代はロケットの世界でも“安売り”競争が続くという状況があったのです。日本の宇宙開発を考えた場合、このコスト面でどう他者に対抗できるかが1つ注目されるところです」(同)
一方、大型化に舵を切ったのがスペースXとブルーオリジンだ。スペースXはロケットのスーパー・ヘビー(70メートル)が宇宙船のスターシップ(50メートル)を上部に搭載して打ち上げるので、全高120メートルにもなる。
「過去最大はアポロを月面に届けたサターンVロケットで、その全高は110メートルでした。当時の打ち上げ技術との比較を考えれば、かなり巨大であることが分かると思います。ちなみにスペースシャトルは全高56メートル。茨城県の牛久大仏がちょうど同じ120メートルなので、牛久大仏が空に向けて舞い上がる姿をイメージすると分かりやすいかもしれません」(同)
ブルーオリジンのニューグレンも2段仕様と3段仕様を選べる形で、3段仕様になると全高98メートルでかなり大きい。そして1段目と2段目は再利用可能だ。
NASAの有人月探査の「アルテミス計画」は残念ながら、当初予定の24年を延期してどうやら26年頃になりそうだが、いずれにせよ、こういった宇宙開発ショーがショーでなくなる日が現実のものとなっている。
(猫間滋)