シーズンオフになると「今年こそ現役引退か?」という噂が囁かれるのがプロゴルファーのジャンボ尾崎だ。シニアツアーへの出場を頑なに拒み、レギュラーツアーでの現役にこだわる姿は、簡単に人を寄せ付けない孤高のオーラをまとう。そんな“ゴルフ界のカリスマ”らしく、これまで「ジャンボ尾崎の本は絶対にできない」と言われてきたが、このほどその通説がついに破られた。ジャンボ尾崎がはじめて公認した書籍「誰も書けなかったジャンボ尾崎」(主婦の友社)が上梓されたのだ。きっかけを作ったのは、ジャンボ軍団のプロゴルファー、金子柱憲プロだ。
著者である金子プロが言う。
「ジャンボについての書籍を書きたいと持ちかけたところ『長年、俺や軍団を見続けたお前ならいいよ』と言ってくれたんです。今までに何度かそのような試みをした方はいたようでしたが、ジャンボの承諾を得ての出版には至らなかったそうです。この本はジャンボ尾崎氏の最初で最後の本になるでしょう」
ページをめくると秘蔵写真とともに、通算113勝、賞金王12回という空前絶後の金字塔を打ち立てた勝負師としてのポリシーが、余すことなく詰め込まれている。「良い球が出るのが良いスイング」というゴルフの基本的考え方から、原英莉花、笹生優花、西郷真央ら“ジャンボチルドレン”の育成法まで、金子プロが選手や裏方、ファミリ—へ徹底的に取材を重ねて紐解いた。なにしろ、ジャンボの教えを受けた選手は、尾崎建夫、尾崎直道、飯合肇、東聡、川岸良兼らから現在まで40年以上途絶えることがないのだ。
巻末にはジャンボ尾崎プロと金子プロの対談が収録されている。ここに一部を抜粋しよう。
金子 試合で精神的に不安に思うことはありますか? あるとすればどんなことですか。
ジャンボ 人間である以上、不安は持つものである、それを補うものは勇気であり、緊張感であると考える。これが、本当にやれるかが、ゲームの醍醐味で楽しいときでもあるんだよ。
金子 ジャンボ尾崎ゴルフアカデミーの子供たちを見て思うことは何でしょうか。
ジャンボ とにかく、私の持っている環境を十二分に利用してもらいたい。それだけ。
金子 子どもたちへ視線が優しく見えるのですが、僕の気のせいでしょうか。
ジャンボ 子供の夢は純粋で、誰にも邪魔できない。しかし、目的意識のはっきりした今では自分自身の目標をしっかりクリアしてもらいたい。自分が一生懸命努力することができれば、長い人生、ゴルフ以外のことでも頑張れるようになるはず。
金子 伸びる選手とは、どんな選手と考えますか。
ジャンボ しいて言えば、何事も前向きに考える人間だな。運や縁は、待っていても来ない。自分からきっかけを掴まなければならないんだ。例えば、笹生優花が全米女子オープンの前に、久しぶりに挨拶にきたあと優勝した。原英莉花も昨年秋、ひざを故障して棄権したあとに練習に来た、何気なく、見てやったら次の週にいきなり優勝。アカデミーの選手も一人だけ挨拶に来たあと初優勝。俺が言いたいのは、俺のところに来たから優勝できたわけでなく、前向きな行動が運を呼び込んだんだな。動物は良いことがあると、ずっと同じ行動をするらしいんだ。人間も同じだよ。常に前向きな行動が運を呼び込むんだ。それが伸びる選手の条件かな。
金子 ジャンボが苦境を乗り越えるために必要なことを一言でいうと何でしょうか。
ジャンボ 俺はジャンボ尾崎であると、強く思っていたからだな。一番期待する人間は「自分自身」なんだよ。
金子 最後に、ジャンボにとってゴルフとは。
ジャンボ 俺にとって、ゴルフとは私を活かしてくれた大恩人であり、ゴルフの奥深さは果てしない。素晴らしいゴルフ人生、ゴルフの神様ありがとう。以上。
ジャンボ尾崎のゴルフへの思いは、変わらない。永遠に熱を帯びたままである。