巨人が9月上旬に泥沼の6連敗を喫した。
「わっしょいベースボール」を威勢よく掲げて、首位固めに入りそうなところからガタガタになった。ほんまに野球は恐ろしいし、ナメたり、油断したらアカンということを改めて痛感させられた。
潮目が変わったのは9月3日からの甲子園での阪神との直接対決3連戦。2連敗で首位から陥落すると、3戦目は6-0の楽勝の展開から引き分けになった。原監督が試合後に「用兵ミス。深く反省」とコメントしていたが、この痛恨のドローを続くDeNA、中日というBクラスとの連戦まで引きずった。多くの評論家が指摘しているように、6回の守備から坂本を代えたのは大間違い。代わりにショートに入った若林、広岡の失策で、阪神に勢いを与えてしまった。
昔のONに代表されるように、中心選手というのは最後まで試合に出る義務がある。グラウンドからいなくなると、ちょっとしたピンチでチームは浮き足立ってしまう。僕も現役時代は大差がついている試合で、代えてほしいのに代えてもらえなかった。昔はダブルヘッダーも普通にあったから余計にきつかった。でも「出続けて当たり前」と思っていたら体が慣れた。坂本も6回の守備から休んでも、体力的にはフル出場したのと変わらなかったはず。代わりに出た選手のエラーで負けたら、精神的には余計にしんどくなる。
この坂本の早すぎる交代も巨人失速の原因となったけど、あと2つ大きな要因がある。そのひとつが中田の加入でベンチの空気が微妙に変わったことにある。8月20日に日本ハムから無償トレードが発表され、翌21日から1軍で起用された。暴力事件を起こして謹慎処分を受けていたこともあって、ファンだけでなく、巨人ナインの中にも釈然としない気持ちの選手がいるのが普通だ。一塁でポジションがかぶる中島は口には出していないけど、不満があって当然。打率3割前後でしぶといバッティングを続けていたから、突然、中田の控えになっては「なんで?」となる。
百歩譲って中田がレギュラーにふさわしい成績を残していたならわかるが、日本ハムでも打率1割台と不振やった。数字は正直で、巨人でも16試合に出場して打率1割5分、1本塁打、2打点の散々な成績で、2軍に降格となった。最初からファームで結果を残してから昇格させる手順を踏んでいたら、謹慎処分のことも含めて、あつれきは少なかったと思う。
失速の3つめの理由は、丸の大不振やね。9月9日のDeNA戦(横浜)では9回二死から同点適時打を放ったが、これが26打席ぶりの安打。シーズン序盤から波に乗れず、6月5日に2軍降格。長嶋さんの直接指導を受けるなどして一度は復調したが、後半戦は再びスランプに陥った。タイミングを取るのが遅いから、ストレートに振り遅れる打席が目立つ。打撃が悪くなったら守備で頑張るものやけど、それもできていない。阪神戦の痛恨のドローも、6回裏の先頭打者の打球を丸がグラブの土手に当てて落としたのが原因。記録は三塁打でも、あれは限りなくエラーやった。
巨人にとっては痛すぎる6連敗やけど、まだ逆転Vの巻き返すチャンスは残されている。原監督がどうチームを立て直してラストスパートを仕掛けるか。腕の見せどころやね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。