北朝鮮人民が恐れる「トンデモ新法」の理不尽実態(1)「韓流禁止法」で言論統制

 今年12月に北朝鮮の最高指導者就任10周年を迎える金正恩氏。一時は重病説や死亡説まで飛び出したが、先日の軍事パレードでは、国家の食糧事情にコミットしたかのような痩身ボディを披露した。イジメ抜いたのは己の体のみならず。理不尽な法律を乱発して人民たちを締め上げているというのだが─。

 不穏な一報に世界中が眉をひそめた。9月13日、北朝鮮の国営メディアが、同国の新型長距離巡回ミサイルの試射に成功したことを報じた。全国紙外信部記者によれば、

「発射から1500キロ先の目標に命中したと言われている。続く15日には、弾道ミサイルを日本海に向けて2発発射。8月に実施された『米韓合同軍事演習』への反発とみられており、北東アジア情勢の安定を脅かす行為として、各国が警戒を強めている」

 弾道ミサイルの発射はおよそ6カ月ぶり。軍事的挑発は今に始まったことではないが、コロナ対策で「鎖国」を続ける北朝鮮の国際的な孤立をより深めたのは確かなようだ。

「終わりのない経済制裁と国境断絶の影響で、食料や燃料不足による国民の不満は高まるばかり。しかも、コロナ禍のステイホームの影響で、水面下では韓流ブームが起きている。西側の情報を耳にして、現在の貧しい現実に違和感を覚える若者も増えました。確実に正恩氏の権力基盤は揺るぎ始めていますよ」(外信部記者)

 そんなピンチを打開するべく、20年12月に制定されたのが「反動思想文化撃退法」だ。北朝鮮ジャーナリストの五味洋治氏が解説する。

「ドラマや音楽をはじめとする韓国の文化コンテンツを禁止する法律です。視聴や保管をすることで5年〜15年の懲役刑(強制労働含む。以下同)、密輸して国内に流布してしまった者には無期懲役刑や死刑などの最高刑が科せられます。狙いはチャンマダン世代と呼ばれる若者たちでしょう。町の市場でUSBやマイクロSDカードに保存された動画コンテンツを購入したり、好んで韓国製のシャンプーや衣服を消費するメインの層ですからね」

 いわば〝韓流禁止法〟とも言い換えられる新法。若者の間に一大ブームを起こしている韓国式の言葉遣いを禁止する条項も盛り込まれた。

「夫を『オッパ』(お兄ちゃん)、交際男性を『ナムジャチング』(彼氏)と呼ぶなど、韓国風の言い回しや略語が、若者の間でオシャレな言葉として認識されています。ただし、使用がバレたら、半年〜1年の懲役刑に処される。服装や髪型などの外見のみならず、言葉遣いのような内面の韓国文化が流入したことに危機感を抱いているのかもしれません」(五味氏)

 だが、どんなに規制を強化したところで、若者たちの韓流ブームが収まる気配はない。ならばと、さらなる厳罰化に向けた新法が制定されようとしているのだ。在韓ジャーナリストが語る。

「9月28日に予定している最高人民会議で『青年教育保証法』が制定される見込みです。詳しい内容までは不明ですが、〝若者の思想教育にまつわる法律〟だと専門家の間で囁かれています。主に、ドラマや艶系ビデオなどの海外コンテンツの取り締まりがさらに強化される見込みです」

 弾圧vs反発。不毛なイタチごっこに終着点はあるのだろうか。

*「週刊アサヒ芸能」9月30日号より。(2)につづく

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