若い頃と比べて体重が増えた…と嘆くビジネスパーソンは多い。中には、肥満の原因を加齢による基礎代謝の低下のせいにして、半ば諦めている人も多いのではないだろうか。
基礎代謝とは、人が生きていくために最低限必要なエネルギーのこと。人はただじっとしていたり、寝ているときなども、運動の有無に限らずエネルギーが消費されている。これが基礎代謝だ。1日のエネルギー消費量は、この基礎代謝が約6割を占め、残り4割が体を動かす様々な活動によって消費されているという。
一般的に肥満になるメカニズムは、エネルギー摂取量(食事量)がエネルギー消費量(基礎代謝量+運動量)を上回ることで生じる。さらに、基礎代謝量は年齢を重ねるごとに低下するといわれ、このことが中年太りの原因だと考えられてきた。
しかし、最新の研究でこれらの通説が崩れたと、医師は解説する。
「8月13日に学術誌『Science』では、米・デューク大学らが29カ国の6421名(生後8日〜95歳)を対象に行った1日のエネルギー消費量の調査結果を掲載。それによれば、1日のエネルギー消費量の平均は10代後半が最も多く、男性が約3415キロカロリーで、女性が2480キロカロリーでした。この数値は50代後半までほとんど変わらず、加齢によるエネルギー消費量の減少は見られません。代謝が落ち始めるのは60代になってからですが、それでも毎年0.7%ほど。90代になってようやく、筋肉量が減少して細胞の働きが鈍くなるため、エネルギー消費量が急落していきます。つまり、少なくとも60代に達するまでの中年太りの原因は、加齢による基礎代謝量の減少ではないことが明らかとなったのです」
では、中年太りの最大の原因は何なのだろうか。まず、脂肪には皮下脂肪(皮膚組織に蓄積する脂肪)と内臓脂肪(内臓周りに蓄積する脂肪)の2種類がある。ここでは糖尿病や高血圧といった生活習慣病を引き起こすリスクが高い「内臓脂肪」が増える原因について解説してもらった。
「現在、明らかとなっている最大の原因は2つあります。1つには、脂質の過剰摂取。よく米などの炭水化物(糖質)が太る原因だと誤解されがちですが、本来糖質は脂肪になりづらい栄養素。アメリカ生理学会の研究レポートによれば、被験者に糖質やタンパク質、脂質などの各栄養素を1.6倍に増やして与える研究を行ったところ、脂質だけが即、体脂肪として蓄積されたそうです。このことから、中高年世代に限らず現代人に肥満が多い原因は、脂質過多の食生活になったからだと結論づけることができます。2つ目の原因は運動不足。若い頃と比べて体を動かす機会が減れば、当然消費エネルギーが減るため、内臓脂肪が増えやすくなります。1日1時間でいいので、スピードに緩急をつけてウォーキングやジョギングするだけでも、脂肪は分解されやすくなるでしょう」
肥満を加齢のせいだと諦めるのは時期尚早。正しい食事や運動の積み重ねによって、10代の頃の若々しい肉体に戻れるかもしれないのだ。
(橋爪けいすけ)