民間用と軍用合わせて世界に約4万4000ヶ所存在する空港。なかでも民間機の定期便が就航している空港のうち、「離発着が世界一難しい」と航空関係者はもちろん、一般の航空ファンの間でも有名な空港がある。ネパールにあるテンジン・ヒラリー空港だ。
ここはヒマラヤトレッキングの玄関口になっている標高2800メートルのルクラ村にあり、人類初となるエベレスト登頂に成功したテンジン・ノルゲイとエドモント・ヒラリーの偉業を讃えて08年に現在の空港名に改名。
切り立った崖上の斜面に作られた小さな空港で、唯一の滑走路はわずか527メートルと極端に短い。オーバーランすれば岩場への激突は避けられず、山の谷間に面しているので普段から風が強く、乱気流も発生しやすい。
非常に高度な技術が求められ、パイロットには通常のライセンスとは別にネパールの航空当局が認めた飛行訓練に合格しなければ、同空港への離着陸は許可されない。
筆者は以前、首都カトマンズからテンジン空港行きの便に搭乗したことがあるが、定員20名にも満たない小さな飛行機。フライト中はヒマラヤの山々を間近に眺めることができて得した気分になれたが、機内からの見えた空港は素人目にも着陸が難しそうなのがわかり、おまけにその日は強風。緊張で手汗が止まらず、着陸後は安堵から他の乗客たちと一緒に拍手したことをよく覚えている。
一方、出発時は滑走路の端ギリギリまで移動し、そこからフルスロットルで離陸。スピードが足らなければそのまま墜落の危険性もある。無事に飛んでも斜面を駆け降りる形で飛ぶので着陸時同様、離陸時の緊張感も他の空港とは比べ物にはならない。
実際、テンジン空港で発生した事故の数を調べたところ、04年以降だけでも少なくとも8回。うち4回は乗員・乗客が亡くなっており、ここまで死亡事故が多い空港も珍しい。
秘境ゆえに気軽に訪れられる場所ではないが、YouTubeでは離発着のシーンを集めた動画が複数アップされている。興味のある方はぜひチェックしてみてはいかが。
(高島昌俊)