舌鋒鋭い芸人として、小籔千豊が重宝されている。本拠地の関西から東京進出を果たした際は、吉本新喜劇の最年少座長という肩書き。その金看板を引っさげて出演した『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系列)で花開き、知名度が全国規模となった。
20歳でデビューしたときは「ビリジアン」というコンビ芸人。しかし、相方が放送作家を志したため、およそ8年で解散。当時の彼女で、のちに妻となった女性と結婚を考えていたため、芸人を辞めようとした。しかし、同期の野性爆弾・ロッシー、シャンプーハット・こいでに引き留められて続行。吉本新喜劇の座長のポストに収まった。そんな小籔には、作詞家だった過去がある。
「08年にCD化された『プリン』という曲です。『こやぶかずとよ』名義で歌も担当しています。彼が座長に就任する前、お母さまが悪性リンパ腫で亡くなったのですが、それが元になって生まれました。息を引き取る4時間ほど前、『プリン食べたいわ』とつぶやいたため、小藪が買いに出かけたんですが、病室に戻ったころはすでに食べられない状態。それを綴った歌詞です」(エンタメ誌ライター)
実話から生まれた名曲といえば、はなわの『お義父さん』が記憶に新しい。実父の存在を知らないまま大人になった妻へ送る、誕生日プレゼントソング。単独ライブで初披露して、17年にYouTubeであげると大反響。またたく間に感動の輪が広がった。
柔和なパーソナルイメージが歌詞に反映されたのがはなわだとすれば、小藪は逆。ヒール的な要素があるからこそ、逆に涙を誘った。『徹子の部屋』(テレビ朝日系)で、あの黒柳徹子も号泣した小籔と母の実話。芸人が生んだ渾身の名曲に心を打たれる。
（北村ともこ）
