阪神・梅野の追加招集で問われる「稲葉カラー」の是非

 阪神・梅野隆太郎が東京五輪を戦う侍ジャパンに“緊急招集”された(6月18日)。先に選出された広島・曾澤翼捕手が左足の故障によって辞退したためだが、この「梅野抜てき」には稲葉篤紀代表監督の“独特の野球観”が表れているともっぱらだ。

「十中八九、梅野が選ばれると思っていました。梅野ではないとすれば、レギュラーを掴みつつある中日・木下拓哉、DeNA・伊藤光かな、と」(ベテラン記者)

 この時点で、梅野の得点圏打率はリーグトップの3割9分5厘。勝負強いバッティングはたとえスタメンマスクではないとしても、「右の代打」としての起用も可能だ。3年連続ゴールデングラブ賞を獲得したトラの正捕手が選ばれて当然なのだが、一方で中日・木下らの名前が囁かれていた理由は、セパ交流戦にある。

「梅野の交流戦打率は1割6分1厘。調子を落としており、普段は対戦しないパ・リーグの投手に苦しんだのが気になります」(同前)

 五輪野球で対戦する投手は、全て“初顔合わせ”となる。初見で苦戦するバッターは国際試合で不向きであり、不安視する声もないわけではなかった。

「スタメン起用される捕手がソフトバンクの甲斐拓也だとすれば、2人目の捕手に求められるのは代打としての打撃力です」(球界関係者)

 打撃力ならば、埼玉西武の森友哉もいる。また、DeNA・伊藤光は捕手でありながら、2番打者に抜てきされて以降、右方向への進塁打や的確な犠打など“チームバッティング”に長けた一面も見せている。

 稲葉監督は2019年のプレミア12のメンバーを軸に選出したとも言われている。“世界一”になっており、その考えは間違っていない。しかし、こんな指摘も聞かれた。

「代表メンバーを発表するまでには、各球団に打診し、相談もしています。本当に故障で辞退した選手もいましたが、シーズンの疲れが残っていたため、『コンディション不良』を名目に、内々に辞退した選手もいました。稲葉監督は後者の選手に関しては、はなから東京五輪の構想から外していたと聞いています」(同前)

 采配に最終的な責任を持つのは監督だ。「なぜ、この選手が選ばれなかったのか?」の疑問は尽きないが、選手選考に“余念”を入れなかったということは、指揮官として、不退転の決意を持って臨もうとしている。そう解釈するしかない。

(スポーツライター・飯山満)

スポーツ