テレワークでパワハラ急増、部下を「監視」したがる上司の言い分

 猛威をふるう新型コロナウイルスの影響で、テレワークを導入する企業が増えた。それに比例して、一部では上司による部下へのハラスメント行為も報告されている。

 ダイヤモンド・コンサルティングオフィスが行なったアンケート調査によれば、「テレワーク中に上司とのコミュニケーションにストレスを感じた」と回答した人は約8割にものぼった。

 都内の商社に勤務する小林彩乃さん(仮名、28歳)も、テレワーク導入に伴った上司のハラスメント行為に頭を悩ませている一人だ。

「うちの会社ではテレワークを始めるにあたって監視アプリを導入しました。このアプリは、PCのデスクトップ上に『着席』『退席』ボタンが設置され、部下が席を立つ場合にはそれを押さなければなりません。しかも、部下のPC画面がランダムに撮影されて上司に送信される機能もあるため、着席ボタンを押したまま席を立つことは不可能。会社はアプリを導入した理由を、部下が過重労働やメンタル不調、進捗の遅れなどを起こさないためと説明していますが、本音としてはサボっていないか監視したいのでしょう。そのため、上司は少しでも進捗に遅れが生じると、ビデオ会議で社員全員の前で叱責したり、メールやチャットでも強い口調で『仕事とはこうあるべき』みたいなメッセージを送ってきたりします。しかし、現実的に自分の家で仕事しているのに少しも気を抜かないなんて不可能だし、子育て、公共料金の支払いや役所への手続きなど日中にしかできない私用だってある。こうした異常な労働環境に耐えかねて、新卒はすでに2人辞めました」

 一方で、上司側にも言い分はあるようだ。都内のメーカーで営業部の管理職を務める小川勉さん(仮名、53歳)は、テレワーク中の部下を監視する理由をこう語る。

「基本的に部下は仕事をサボるものだと思っている。実際、テレワークを導入してからというもの、ちょっと目を離すとすぐに席を立ち、私用の外出や家事など仕事とは関係のないことをする者は多い。仕事で十分な成果を出していないにもかかわらず、普段会社ではやらない(できない)ようなことを、なぜテレワークならやってもいいと勝手に判断するのかがわからない。部署によっては出社しなければならない社員もいる中で、テレワーク組にだけ理不尽な自由が与えられているとなれば社内で不公平感が増すのは必至。自分勝手な部分最適ではなく、組織の一員であるなら全体最適で考えるべきだ。会社から給与をもらっている以上、就業時間中は仕事以外のことをするべきではない。元々うちの会社は普段から残業には厳しいため、就業時間さえ仕事に専念すればいいだけの話。それができないというのなら、会社を辞めて転職するなり独立するなり自分で好きなように働いたらいい。うちの会社とはミスマッチだったということだ」

 マイナビニュースが会員161人を対象に実施したアンケート調査では、「テレワーク中にサボったことがある」と回答した人は7割以上にも達した。

 しかし、組織人事コンサルタントは、上司による部下への監視行為を厳しくこう断じる。

「テレワークの是非を問う場合、まずは企業の業績ベースで検証する必要がありますが、テレワークを導入したことで業績が向上した企業もあれば悪化した企業もあるため、一概には言えません。生産性という面においても、何をもって向上/悪化したと判断するかが重要。米ソフトウェア大手のオラクルが世界11カ国で行なった調査では、リモートワークが進んだことで日本が最も生産性が低下したというデータもあります。そのため、労働者側の『以前より仕事が楽になった』『生産性が上がった気がする』という感想だけでは何の意味もないため、不毛な議論となるだけでしょう。しかし、上司や経営者は、いまの日本社会では部下を執拗に管理することがリスクだという認識を持つ必要があります。このご時世で部下を監視するという行為は『リモートハラスメント』に該当し、上司の責任問題に発展する可能性が高い。そのため、上司は部下に対して〝外注先〟のように接することをすすめます。仮に取引先の若手社員が少々サボっていたとしても、別にそこまで目くじら立てませんよね」

 昨年6月、パワハラ防止法が大企業を対象に施行され、来年4月からは中小企業に対しても適用される。「ハラスメント撲滅」の機運が高まるいまこそ、管理職の手腕が試されるときなのかもしれない。

(橋爪けいすけ)

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