北朝鮮では韓流ドラマを観ることも、命がけだ。
北朝鮮が反社会主義思想文化の流入、流布を防ぐ、として国会にあたる最高人民会議で「反動思想文化排撃法」を採択したのは昨年12月のこと。韓国の映像物を流入・流布した場合、最高で死刑、視聴しただけでも最高懲役15年という刑罰が下されることになった。
そんななか、昨年末に北朝鮮の一都市で、なんと1万人にも及ぶ学生が違法動画視聴の事実を認め、警察当局に自首した。4月29日の韓国紙「国民日報」(電子版)が伝えた。
北朝鮮の情勢に詳しいジャーナリストが語る。
「この法律は、通称『韓流取締法』と言われ、禁止項目に該当するのは(1)韓国の文化コンテンツの視聴、流布 (2)淫乱物(アダルトビデオ)の製作、流布 (3)登録されていないテレビ、ラジオ、パソコンなどの電気機器の使用 (4)閲覧が禁止された映画、録画編集物などの視聴、保管などの4つ。北朝鮮ではかねてから韓国からの映像や音楽流入を問題視していて、2013年には韓国の録画物を視聴した罪目で男性2人を処刑、同じ年に両江道恵山市(ヘサンシ)でも、韓国版成人向け映像を見た2人の大学生を銃殺しました。それを皮切りに以降、取り締まりを強化してきたものの、流布・視聴がなかなか収まらなかったこともあり、ついには、殺人や強盗、人身売買、性暴行などに加え、韓国録画物視聴でも場合によっては死刑も辞さない、ということになったようです」
ところで、北朝鮮国民はいかにして韓流ドラマやお色香映像などを入手しているのか。
前出のジャーナリストによれば、大半は中国でUSBやSDカードなどに記録されたものが北朝鮮に密輸され、地下業者らの手により複写・販売されるのが一般的なパターンだという。
同氏が続ける。
「今、北朝鮮で多く視聴されているのが、日本でも人気になった韓国ドラマ『愛の不時着』。彼らは、隠語で『時着(シチャク)』と呼んで、やり取りしているようです。以前は、『秋の童話』や『天国の階段』『マイ・リトル・ブライド』などが流行しましたが、反動思想文化排撃法の施行もあり、さすがに全編通して視聴できず、映像はブツ切りのものが多いと言われます。ただ、一般人だけでなく、軍人のなかにもファンが多く、それなりの数が出回っているようなので、今後も逮捕者が増えることは間違いないでしょうね」
北朝鮮の公開処刑場は全国に300カ所余りとされるが、脱北のあっせんや、韓国に逃げた家族との通話などが原因で政治犯収容所に送られ、処刑されるケースに加え、近年は、不適切映像や麻薬が原因で処刑されるケースも増加しているという。
「当局としては法を強化し、見せしめとして違反者に処刑すれば、国民に恐怖心を植え付け抑止効果になるはず、と考えたのでしょうが、それを利用して、違反者からワイロを受け取り私腹を肥やす労働党関係者も少なくない。法律が強化されようが、その構図は全く変わっていません。結局、そのしわ寄せは、一般市民にむけられ、ますます監視社会、密告社会の色合いが濃くなってきているようです」(前出のジャーナリスト)
恐怖政治はどこまでエスカレートするのか。
(灯倫太郎)