「運転中に考え事を…」元プロバスケ選手が裁かれた過失運転裁判の顛末

 このところ、テレビの情報番組で危険な「あおり運転」が頻繁に取り上げられているが、処罰の対象となるのは、故意の危険運転やひき逃げに限ったことではない。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が傍聴したのは過失運転致傷の裁判。被告人はプロスポーツの世界で活躍した有名人だったというが…。

 罪名は過失運転致傷、被告人は飲食店勤務の男性。

 起訴されたのは、昨年夏に被告人が車を運転中に交差点で右折する際、横断歩道を渡っていた女性(60代)をはねて頭骨骨折など全治3カ月のケガを負わせたという内容。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後にプロのバスケットボール選手として活動して、犯行当時は市場の配送の仕事をしていたという。

 被告人はバスケのプロ選手として活躍していただけではなく、日本でも指折りの名プレイヤーだったようで、バスケ好きにとっては有名人。今は事故も裁判も報じられてない現状ではありますが…。

 取り調べに対し被告人は「歯医者に行くのが面倒だなぁと考えて運転していて被害者を見ていなかった」と答えてるそうです。歯医者に気を取られてたなんて。

 そして被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「何故こんな事になったんですか?」

被告人「いろんな考え事をして運転してたので」

弁護人「事故起こってどう思いました?」

被告人「すぐに救急車と警察呼ばなきゃと」

弁護人「逃げてしまおうとか邪な考えは無かった?」

被告人「はい」

 救急車は15分後に到着し、パトカーはその10分後にやって来たそうです。すぐにケータイで通報したこともあってスピーディーに後処理が出来たとのこと。そこは元スポーツ選手だけあって素早いフェアな対応と言えますね。

弁護人「示談の方はどうなってますか?」

被告人「病院の方にお見舞いにも行ったんですけど会えないという事で…。保険会社同士で話し合うことになっています」

 被害者の方が怒っているのか直接の謝罪は許されないものの、保険で弁償などをする予定になっているそうです。

弁護人「車は今どうなってますか?」

被告人「実家で親が乗っています。自分は仕事が変わって飲食店まで電車で通ってるので」

 車も持ってないし乗る機会もほとんど無いんだと主張していました。

 続いて裁判官からの質問。

裁判官「事故った交差点って見晴らしの良い所ですね」

被告人「そうですね、当日は雨が降ってましたけど」

裁判官「考え事って目を閉じてたんですか?」

被告人「いいえ」

裁判官「被害者に気付かなかったんですか?」

被告人「姿勢が悪くてフロントミラーが邪魔で見えてませんでした」

裁判官「被害者に気付いたのはいつなんですか?」

被告人「衝突した時ですね、叫び声も聞こえたので…」

 ホントにボーッとしてたんでしょうねぇ。現役時代はもっと周りが見えてたでしょうけど。この後、検察官は禁錮1年を求刑。すると、

裁判官「少し検討しますので、目の前のイスに座って下さい」

 と、被告人を座らせてその日のうちに判決を出す予告です。そして30秒後に言い渡されたのは、禁錮1年執行猶予3年でした。

 前科も無いし、事故の対応もしっかりしてるし執行猶予付きは当然でしょうね。

 事故を起こすのは仕方ないとして、その後の行動や対応が問われるんだなぁと改めて思いましたね。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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