「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」
2月3日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会でこう発言し、国内外の複数のメディアから女性蔑視だとして批判の的となっているのは、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長。
昨今の世界的な潮流を受けて、日本においても「性」に関する権利が叫ばれている中、森氏のようにいまだに時代錯誤な認識を持っている人は一定数いるものだが、こうした失言は決して対岸の火事ではない。普段の何気ない会話でも、無意識に相手を傷つけてしまっている可能性は誰にでもある。
都内の中小メーカーの営業部に勤務する神崎学さん(28歳・仮名)も、最近そんな経験をした一人だという。
「先日、リモートでの会議が終わって、しばらく時間が空いたのでオンラインにしたまま上司と雑談していたのですが、お互いの家庭の話題になったんです。そこで私が『へ~そうなんですね。ところで奥様は…』と話題をふった瞬間、上司にブチギレられました。上司の話によれば、どうやら“奥様”という言葉は、『一家の主である男性に対して、女性は家の奥にいる存在』という女性蔑視的な意味に取れるのだとか。上司は元々、ジェンダーや男女平等などへの関心が強いため逆鱗に触れてしまったのでしょう。とはいえこの場合、奥様に代わるちょうどいい呼称はありませんし、関西芸人のノリで言えば『どうせえっちゅうねん!』って感じですね。それ以来、面倒臭いので上司に奥様の話はしないようにしています」
実際、相手方の妻にあたる人物をどう呼んだらいいのか悩んでいる人は意外に多いようだ。ネット上には《別に奥にいるわけではないのに、奥様って呼ぶのに抵抗がある》《名前を知っていれば●●さんって呼べばいいけど、知らなければ奥様って言うしかないのが辛い》《同じ女性として、女性蔑視を連想させるような言葉は使いたくない》などの声も。
では、このようなケースではどのように呼ぶのが最適解なのだろうか。これまで多くのマナー本を手掛けてきた編集者はこう解説する。
「よく奥様の代わりにご夫人という呼称を使う人もいますが、これでは解決に至らないでしょう。一説によれば夫人の語源は『夫を助ける人』『夫の所有する人』などとも言われているため、結局女性蔑視と捉えられてしまう可能性もあります。差別や蔑視の問題は、その発言を相手がどう受け取るかによるため判断が難しく、一概にこれが正解と言うことはできませんが、“パートナー”と呼ぶのが無難かと思います。今の時代、結婚するのは男性と女性のペアとは限りませんし、籍を入れない事実婚のカップルも多いですからね」
性や結婚のあり方が変わっていくとともに、言葉の選び方ひとつにもいっそう気を配るべきなのかもしれない。
(橋爪けいすけ)