歴史芸人が思い描く「麒麟がくる」のラストシーン「こっそりと生き延びて…」

 謀叛人、裏切り者と言われてきた明智光秀だが、「麒麟がくる」では従来のイメージを離れ、現代に通じる人物像として描かれている。

 脚本を担当した池端俊策氏は、20年12月4日に東京・よみうりホールで開催された歴史文化講座「明智光秀、新発見!」で、次のように語っている。

「信長が麒麟(平和)を呼んでくる人物なのか、それとも将軍の足利義昭なのか、そこで光秀は悩むわけです。そして麒麟を連れてくると思っていた信長を殺すというのが『本能寺の変』です。では、誰が麒麟を呼んでくれるんだろうか、光秀自身がオレがそれをやるというふうに思ったのか、それとも義昭やその他の別な人間とやっていこうと考えたのか。そのあたりが、私の長い間の宿題であったわけです」

 他方、今に通じる悩みを抱えていたと熱く語るのは戦国史に詳しい歴史芸人の桐畑トール氏で、

「光秀は浪人時代に足利義昭に出会い、室町幕府のエリート官僚になりますが、ヘッドハンティングされて『オダ会社』に入った。織田家家臣団の中で最初に近江・坂本城を与えられ、オダ会社のナンバー2にまで昇り詰めます。ところが同じ中途入社組で、いわばアルバイトから正社員になったような羽柴秀吉がメキメキと出世し始め、オダ会社は光秀と秀吉が出世競争を演じるツートップ体制に。しかし光秀は家康の接待役を命じられて『腐った魚を出した』と接待役を解任されたり、あげく援軍として秀吉の下につけと命じられたりします。ちょっとした失敗でバッサリ切られる減点主義の社風で、超ブラック企業であるオダ会社は、実は現代にもたくさんある。令和の私たち同様に、光秀は相当にショックだったんじゃないでしょうか」

 さて、いよいよ2月7日に最終回を迎える「麒麟がくる」だが、1月10日放送の第40話はこうだ。信長と対立していた大坂の本願寺攻めの陣から突如として逃亡した松永久秀は、大和を筒井順慶に与えるとした信長の人事に不満を漏らし、本願寺に寝返ると、光秀に決意を打ち明ける。俗説では、久秀は信長が熱望していた「平蜘蛛の茶釜」もろとも爆死したとされるが、ドラマではその茶釜はなんと光秀に託される。光秀は信長にその行方を尋ねられ、ウソをつく。が、このウソは秀吉の密告によって信長の知るところとなる。「平蜘蛛の茶釜」を手にした光秀は「これは松永久秀の罠だ」と狂気が宿ったような目で叫ぶのである。久秀は光秀に、信長から離反することをメッセージとして残したのだ。そこに秀吉や帝らも関与しているかのような、複雑な伏線が張られていることが読み取れる。脚本の池端氏が「長い間の宿題」とするその答えへの秒読みが始まった。果たしてドラマの結末はどうなるのか‥‥。

 大河ファンでもある桐畑氏の期待はこうだ。

「秀吉に敗れて、俺がやったことは間違いだったんじゃないかって苦悩して死んでいく‥‥と見せかけて、光秀はこっそりと生き延び、天海僧正となって家康を助け、泰平の世(麒麟がきた世界)になる江戸時代まで生きたという結末を待っているんです」

 家康の死後に日光東照宮を造って、日光の地に「明智平」と命名したと言われる伝説の天海僧正。華厳の滝を駆け上り、明智平を麒麟が駆け抜けていく、そんなラストシーンを夢想するのも楽しい。

 自身を取り巻く情勢の板挟みになって、忖度し苦悩した光秀。これは正にコロナ禍の中、企業間、企業内での生き残りをかけた熾烈な競争を生き、高齢になってなお年下の上司にいじめられながらも働き、さらにリストラや雇い止めなど、将来への不安を抱えて今を生きる私たちに共通する悩み、感覚ではないだろうか。

 せめて明日に未来に、麒麟がくることを夢見て「今日を生きる」こととしたい。

桐畑トール(きりはた・とーる)72年、滋賀県生まれ。上京しお笑い芸人に。05年、オフィス北野に移籍し、相方の無法松とお笑いコンビ「ほたるゲンジ」を結成。戦国マニア芸人による戦国ライブなどを行う。「伊集院光とらじおと」(TBSラジオ)のリポーターとしてレギュラー出演中。

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