飲酒後の事故で御用!格闘家に裁判官が激怒したワケ【ギョーテン裁判傍聴記】

 昨年の秋、飲酒後の交通事故で、とある総合格闘家が過失運転致傷などの容疑で逮捕・起訴されていた。自身が経営するバーで飲酒後、65歳のドライバーが乗る乗用車に衝突し、重症を負わせた本件。被告人が事故後に取った意外な行動と気になる判決は? お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が振り返る。

 昨年12月10日、東京地裁で総合格闘家の男に有罪判決が言い渡されました。

 罪名は、過失運転致傷と道路交通法違反。

 起訴状の内容は、被告人は酒のせいで眠気をもよおしていたにもかかわらず車を運転して、東京・文京区で対向車線を走っていた被害男性運転の車に時速58kmのスピードで衝突し被害男性に全治6カ月のケガを負わせた件。そして、事故発生後に110番通報せず現場から逃走した件。この2つで起訴されていました。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人はプロの総合格闘家として活動しながら、女性の接客を伴うバーの経営もしていたという。

 犯行当日、被告人は経営しているバーで朝まで飲酒をして、閉店後に女性従業員を車で送迎。自宅に帰る途中で本件事故を起こしたとのこと。被告人は被害男性に声を掛けすぐに119番で救急車を呼んだが、自分の車をそのまま放置してタクシーに乗って逃走したというのが事件の流れです。

 これって飲酒運転じゃないの?と言いたくもなりますが、事故後の被告人はタクシーに乗って山梨県へ行き、旅館で一泊した後に警察署に自首してるのでアルコールの証拠がないようです。ちょっとズルい気もするけど証拠がないんだから仕方ない。

 そして被告人質問。

弁護人「ガールズバーの営業が終わって女性従業員を車で送迎したと。飲酒しての送迎は今まであったんですか?」

被告人「初めてです」

弁護人「店で飲酒した後に車で帰宅したことはあるんですか?」

被告人「4~5回あります」

 飲酒運転の常習者だったみたいですね。いずれ起きてた事故なのかなぁと。

弁護人「あなたは20年間プロの総合格闘家としてやってきたと。引退はしてるんですか?」

被告人「してません」

弁護人「最後の試合はいつですか?」

被告人「去年の6月です」

弁護人「どこで誰とですか?」

 もはや事件とは全く関係ない質問ですけどね。

被告人「×××××(※超有名団体)で相手は×××××(※超有名選手)でした」

弁護人「強い相手なのかな?」

被告人「そうですね」

 被告人質問というよりはヒーローインタビューっぽい感じ。

弁護人「仕事ですが、今後どうするんですか?」

被告人「20年間格闘技だけでしたので、もう一度リングに立ちたいと思っています。それまではバイトでも何でも」

 とにかく今後もリングに立つってことなので、ファンにしてみればまた戦う姿を見ることが出来てホッと一安心でしょうか。

 続いて裁判官から。

裁判官「被害者に声を掛けたら『う~』と言ってたと。どれくらいのケガだと思ってましたか?」

被告人「大きいケガではないのかなと。軽傷とは思ってませんでしたが」

裁判官「車はつぶれてるんですけど、なぜ大ケガとは思わなかったんですか?」

被告人「自分も頭を打ってまして、自分中心で自分が大丈夫だから大丈夫だろうと…」

裁判官「相手は年上ってすぐにわかりますよね。あなたは格闘技やってて立派な体なんだから全然違いますよ!」

 といった具合に超激怒。というのも被害男性は65才で、被告人は41才。しかも被告人は格闘家ですから。そりゃ全然違うだろう、と。

裁判官「今後お酒どうしますか?」

被告人「今後飲むつもりないです」

裁判官「やめるじゃなく、つもりがないってどういう意味なんですか?」

被告人「一生飲まないのは現実的にムリかな、と。でも被害者の為にもしばらくは…と」

 断酒じゃなくしばらく飲まない宣言をして被告人質問は終了。

 そしてこの初公判から1週間経った12月上旬に判決が言い渡されました。結果は、懲役3年執行猶予4年。

 しばらく飲まないって約束は少なくとも執行猶予期間中は飲まないって意味なのかなぁと受け取りましたけどね。酒飲みたいという欲望vs被告人。果たして勝てるのか…。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)

大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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