盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
藤川球児の引退試合を甲子園で見てきました。サンテレビの解説席で、試合開始から、ゲームセットのあとに1時間ぐらいあったセレモニーの最後まで。阪神としては去年、功労者の鳥谷がケンカ別れみたいな形で去っていたし、せめて藤川には大々的なセレモニーをしないといけないと思ったんかな。
個人的にはちょっと企画が多くて、長すぎる感じがした。11月のナイターで寒かったしね。ファンは巨人相手に火の玉ストレートを見られて満足しているし、引退スピーチだけでもよかったかもしれんね。
投球自体は「ほんまに引退するんか」と思うほどよかった。9回から登板して、坂本、中島を連続三振、最後は重信を二飛。ストレートも150キロ近く出ていて、力があった。
「ほんまの真剣勝負か」と言われたら違うかもしれんけど、坂本も振り遅れていた。2アウトになって重信の次が岡本やったから、歩かせて岡本との勝負も見たかった気がする。でも公式戦ということを考えると、引退試合といえど、露骨な四球も考えもの。重信もやりにくかったと思う。中途半端な結果がネット上で物議を醸したらしいけど、彼の立場からしたらしかたがない。日本シリーズに向けてしっかりアピールしないといけない選手やから。
藤川だけでなく、今年はいろんな選手の引退試合が各球団で行われた。最近のはやりやね。営業としての戦略もあると思う。消化試合でもファンが来てくれるし、引退グッズも売れる。藤川のセレモニーなんかを見ていると、うらやましく思う。僕の場合は上田監督が最終戦のスピーチで「やめる山田、残る福本」と言うところを「チームを去る山田、福本」と言い間違えたのが引退のきっかけ。ファンの前で言ってしまったものはしかたがない。まだ現役を続けたかったけど、ユニホームを脱いだ。
翌年のオープン戦で引退試合はやらせてもらったけど、1打席だけ。結果は二ゴロやったと思う。今の時代やったら、相手チームが忖度して盗塁も決めさせてくれたかもしれんね。当時はそんなショー的な感じは薄かった。僕も米田哲也さんや星野仙一さんの引退試合でヒットを打った経験があるし、そこは真剣勝負でいいと思う。特に今の時代はオープン戦でなく、公式戦でやるんやからなおさら。公式戦の生涯成績の数字は、手を抜いたものも含まれてしまうわけやから。
成績でいえば、藤川は名球会入りの条件の日米通算250セーブにあと「5」届かなかった。本人は「まったく興味がない」と言っているけど、残念やし、もったいない。もう1年、頑張ってやれば達成できたやろうし、狙えるだけの力も残っていた。記憶も大事やけど、プロ野球選手は記録も大事にしてほしい。特に阪神の生え抜きの名球会投手は村山実さんだけやから。達成すれば、マスコミにも大きく取り上げられて後輩たちの目標にもなる。
藤川のスピーチでも言っていたけど、松坂大輔は頑張らなアカン。このままやと、あれだけ一世を風靡した「松坂世代」から一人も名球会入り選手が出ないことになる。松坂は今年1試合も投げていないけど、報道によると、来年も現役を続けるという。契約してもらえるなら、意地でも復活してファンを喜ばせてほしいな。そうなれば、それこそ引退試合の時には大いに盛り上がるはず。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。