「詐欺に加担する行為ということはわかっていました。短絡的な欲望を満たすために、本当に取り返しのつかないことをしてしまいました……」
そう懺悔するのは、都内で税理士事務所を営む江波たけしさん(仮名・40歳)。いま世間を賑わせる持続化給付金詐欺の片棒を担いでしまった税理士の一人だ。
持続化給付金とは、端的にいえば、新型コロナウイルスの影響で収入が減った個人事業主に、最大100万円(法人は200万円)が支給される制度のこと。
この制度を悪用した事例が相次いでおり、不正受給による逮捕者は全国で30人以上。不正受給者の指南役にも捜査の手が及んでおり、沖縄のある税理士は1800件の虚偽申請に関与した疑いがもたれている。
こうした一連の報道を受けて、不正受給した大学生などが自首する動きも活発化している。政府は中小企業庁による調査開始前に返還を申し出れば、加算金などのペナルティーを科さない方針を打ち出したが、現在は返還希望者が殺到しているため、返金手続きの一部を停止している状況だ。
不正受給の手口について江波さんはこう解説する。
「私が申請を手伝ってあげたのは、1年ほど前に“デリバリー型ピンク店“で知り合ったデザイン系の学校に通う21歳の女子でした。もちろん性産業関連の仕事は支給対象ではありませんが、フリーランスのデザイナーという嘘の肩書きにして確定申告(虚偽の経費を計上、所得税はゼロ)を行い、給付金を申請してあげました。なぜこんなことができたかといえば、まず彼女が今回はじめての確定申告だったことと、コロナによって今年の確定申告期限が延長されたからです。そうなれば、職種や収入はいくらでも後出しジャンケンでごまかすことができますからね。なお、彼女からはマージン等は受け取っていません」
なぜ、社会的立場のある税理士が、一銭の得にもならない詐欺行為に加担してしまったのか。
「3カ月ほど前にピンク店で彼女を指名した際、『持続化給付金をこっそり貰う方法教えて』とせがんできたんです。彼女はそれを条件に、店に内緒で連絡先を交換することと、“ナマ“で奉仕してくれることを提案。誘惑に負けた私は後日、申請を行ってしまいました。しかし、最近になってこの不正受給の問題が取り沙汰されるようになり、申請を手伝った税理士にもリスクが及ぶようになってしまいました。国も『返還すれば加算金を科さない』ということなので、彼女に『やっぱり返したほうがいい』と連絡。すると彼女は『もう使っちゃったから今さら返せない。もし私に何か不利益が起こればアンタとの関係を全部バラす』と電話を切られました。その後、彼女とは連絡がつかず、いまは逮捕に怯える日々を送っています」
取材の最後、筆者に「警察には絶対言わないでください」と念を押した江波さん。ひとときの誘惑に囚われたことで、今や失職の窮地に立たされている。まさに“因小失大”とはこのことかもしれない。
(橋爪けいすけ)
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