「ディープフェイクに救われた」32歳の主婦が漏らした本音と“艶系キャリア”

「ディープフェイクのニュースを見て、一瞬ですが、救われた思いがしました。というのも私には家族にも言えない秘密があるので……」

 こう話す山本理恵さん(仮名、32歳)は5年ほど前、経済的な理由から企画物の艶作品に出演した。最初で最後となる1作品で引退し、現在は結婚して夫と3歳になる娘と一緒に暮らしている。そんな彼女が関心を寄せているのがディープフェイク。AI技術を使って、元となる艶動画に別な女性の顔を合成したフェイク映像のこと。現在、女性芸能人の顔を無断ですり替えた艶動画がネット上に広く拡散されているが、10月に入ってから製作に携わった者が次々と逮捕されている。

 理恵さんがディープフェイクの拡散を「好都合」と評したのも、彼女の艶キャリアが大きく関係している。

「20代前半は、夜の街や性産業で働いており、ピンク作品に出演したのも稼げるからという単純な理由でした。もちろん、旦那や娘には、過去に私が艶動画に出演したことは言っていません。引退後、公式に販売・配信していた作品は停止してもらえましたが、海外流出版は消すことができず、いまだネット上に映像が残っています。かなりマニアックなジャンルに出演したので、一部の熱狂的なファンがおり、いまでもかなり再生されてしまっているようです」(理恵さん)

 背景にあるのが、艶動画への「出演強要問題」。これは、2016年に国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」が調査報告書を発表して問題を提起したことを皮切りに、女性たちが次々と「私はだまされて艶作品に出演させられた」と被害を訴えたものだ。艶系業界に詳しいジャーナリストが語る。

「出演強要問題を受けて、2017年に艶業界全体としてルールが定められました。そこで元女優たちが最も望んだことは、いわゆる“身バレ”を防ぐための出演動画の削除でした。しかし、海外版の動画削除はそう簡単ではありません。なぜなら、海外のサーバーを利用しているため、国内法が適用されにくく、摘発が難しい場合も多いからです」

 このように、艶動画における違法アップロード問題は抜本的な解決には至っていない。“身バレ”を恐れる元企画女優にとって、最近ニュースになっているディープフェイクは大きな関心事だという。幸せな家庭を築いている理恵さんもその一人だ。

「身勝手なことを言っている自覚もありますが、私は今後もっとディープフェイクが広まっていけばいいと思っています。なぜなら、ネット上に拡散されている艶動画のうち、どれが本物と偽物の見分けがつかなくなれば、いずれは私が過去に出演した映像も嘘の中に埋もれていき、フェイクだと言い張ることができるようになるからです。自分の性動画が映像としてネットに残り続けると思い、自死を考えたこともありました。いつか旦那や娘にバレて軽蔑され、見捨てられてしまうんじゃないか……。そんな不安を抱えて生きていくのはもう嫌なんです」

 多くの芸能人の名誉を傷つけるニセ動画の作成・拡散は卑劣な犯罪行為だ。その一方で、身バレの恐怖に怯える元艶女優にとって、ディープフェイクが一縷の望みとなっているのも事実のようだ。

(橋爪けいすけ)

※写真はイメージです

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